交通事故に遭い、怪我を負うと治療の為入院や通院したりする事になると思います。その治療費を相手の保険会社に損害賠償請求することができるのですが、すべての治療が請求できるのでしょうか?
目次
怪我の治療は病院・整骨院どちらでするべきか
怪我の状況によっては専門的な治療を行う病院にかかる必要も出てきます。その場合、病院に行くべきか、整骨院に行くべきか、悩んでしまうケースも出てきます。
交通事故で生まれた怪我の治療をどこで対応するかによって、加害者の保険会社に請求できる損害賠償の金額が変化するため、どこで治療するかは重要な要素になってきます。
交通事故の怪我の治療は病院でするべき
交通事故に遭って怪我をしたならば、すぐに「病院」に行きましょう。整骨院や治療院ではなく、「医師のいる病院機関」です。
病院に向かうのは、事故当日から遅くても一週間以内にしましょう。もしそれより後日に病院で診察を受けた場合、怪我と事故との関連性を保険会社に証明することが難しくなり、保険会社が治療費の負担を断る可能性があります。
Q:何故病院で医師の診察を受けなければいけないの? |
A:治療費を負担する保険会社が「病院の医師の診察=治療」と考えている為です。つまり、「治療である病院の診察を受けていないならば治療ではないから治療費を負担しなくてもいいよね」となるケースもあるのです。 |
整骨院や整体院、治療院などの施設には「医師」がいません。その為被害者の怪我の状況や進行具合にあった適切な治療が受けづらい傾向にあり、正しい治療が施されない事があります(場合によっては痕が残る事も)。
またこちらの下記の記事に記載されているように、損害賠償金を加害者の保険会社に請求する際には、「医師の診断書」が必要になります。診断書の作成ができるのは医師のみのため、事故に遭ったらすぐに病院に通うことをおすすめします。
痛みの自覚症状が無くても必ず病院にいくこと
Q:事故に遭ったけど、体をぶつけていないしどこも痛くないから病院に行かなくてもよい? |
A:いいえ、必ず病院に行ってください。事故から数日以内が望ましいです。 |
事故に遭ったけど体のどこも怪我をしていない、または仕事で病院に行く時間がないからと、病院の診察や治療を後回しにした場合、結果としてその選択が取り返しのつかないケースに繋がる事があります。
特に交通事故に遭った直後は、脳が興奮していて体の痛みを自覚していない状態が多く、被害者自身はどこも怪我をしていないと思っていても、実際は身体の内部に大きな損傷を受けている可能性がありえるのです。
病院でないと後遺障害診断書がもらえないので注意
もし事故で負った怪我が治らず症状固定となった場合、後遺障害等級を申請する必要があります。その時、事故に遭った時点で病院の検査を受けておかなければ、怪我の状況と推移を書類で証明できにくい為、後遺障害が不認定になる事も在り得るのです。
なにより後遺障害等級の申請は「後遺障害診断書」が必須です。この書類を作成できるのは医師だけです。整骨院でずっと施術していた被害者が突然病院にきて診断書を書いてほしいと話しても、医師にしてみれば被害者の怪我の状態を事故当初から知らないため、診断書を書くことが難しいのです。詳しくはこちらの記事をご覧ください。
交通事故に多い怪我の種類と治療方法
交通事故に遭うと、むち打ち、骨折、捻挫など様々な症状になることがあります。
ここではそのケガの種類と治療方法について説明をしていきます。
怪我の種類① むちうち
交通事故の被害者が負う怪我のうち、最も頻度の高い怪我がむち打ち症です。
むち打ちの中でも種類は軽度のものから重度のものまで4つが存在します。
症状1 頚椎捻挫型
もっとも多く首や肩に痛みが出る頚椎捻挫型の症状
(むち打ち全体の70%はこの症状と言われています)
症状2 バレー・リュー症候群
主に耳や目、喉、心臓などに痛みが出る症状です。
めまいや頭痛、吐き気を伴うケースもあります。
症状3 神経根症状型
主に神経の根っこの部分が圧迫されて起きる痛みです。
ひどいケースは運動神経障害につながるケースもあります。
症状4 低髄液症候群型
慢性的な頭痛、吐き気、ひどいケースは手足のしびれなど
感覚障害につながるケースもあります。
症状ごとに重軽度で表すと下記の図のようになります。
交通事故の怪我の症状は被害者によって、性別、現場状況、年齢、体質、持病などの様々な個人差があり、むちうち症においても同じことがいえます。むちうち症の種類によって現れる症状は分けられます。
むち打ちの症状 | |
---|---|
▶頸部(首)の捻挫 | 筋肉や靭帯、関節を包む箇所が損傷した事が原因。 脊髄に損傷がなく、自律神経失調症や神経根症状型の痛みも見られない場合はほぼ頸部捻挫。引き起こされる症状としては、頭痛、首が疼く痛み、首周りの筋肉の圧迫されるような痛み、首があまり動かない、といったもの。 |
▶神経根症状型 | 体の部位を支配する神経根に腫れや損傷が起きたことが原因。 首の上の部分の神経根の場合は知覚や神経の圧迫と痛みが起きる。首の下の部分の神経根の場合は首~肩、腕にかけて散発的な痛みや痺れ、二の腕部分の筋力が低下したり筋肉の萎縮や知覚障害が起きる。 ジャクソンテストやスパーリングテストといった神経学的検査で明らかになる事が多く、皮膚の痛みや障害、異常が客観的所見として認められやすい。 |
▶低髄液圧症候群 | むち打ちの外傷で脳の髄液が漏れて液圧が低下するのが原因。 脳と脊髄が入った袋を満たしている液体が漏れて袋の圧力がさがることで頭痛、吐き気、眩暈、集中力と記憶力の低下、視力障碍、倦怠感等、様々な症状が起きる。 |
むち打ち症の検査
医師が被害者と問診し、患者から事故の状況や被害者に出ている痛みと痛みの出ている体の部位などを伝えて診察します。また、頸部(首)がどれだけ動くのか、動かしたときの痛みの有無、圧迫した痛みがある箇所等を触診します。
むちうち症の検査では、スパーリングテストやジャクソンテスト、筋萎縮検査などが行われます。他にもレントゲン検査がありますが、医師によってはCTスキャン検査やMRIも行う場合があります。その他詳しい検査についてはこちらの記事をご覧ください。
むちうちの治療方法
むち打ちの治療は、受診からの時間経過によって3つの期間に別れます。
それぞれの期間で治療方法が変わりますが、最初は「安静と患部固定」、次に「物理療法と運動療法と薬」、3ヶ月以降は劇的な回復がなく慢性的になるため「病院の治療+整骨リハビリや鍼」を行います。
むちうちの通院期間や症状固定の時期が事故から3ヶ月後だといわれるのは、この慢性期に入る為です。
慢性期に入る頃にはむちうちの症状は完全に回復するか、それとも痛みが継続的に残ってしまったかのどちらかに別れる被害者が多いため、保険会社が症状固定にしませんか、と提案をしてくるのです。
怪我の種類 ②骨折
交通事故における怪我のうち、むちうちに次いで高い怪我が骨折です。交通事故の骨折の多くの原因は、外からの強い力に耐えきれずに骨が折れる「外傷骨折」です。骨折といっても骨がばらばらに砕けるものから、ぽっきり折れるものまでピンからキリまで存在し、骨の破砕段階に応じて5種類に区分できます。
骨折の検査
骨折を判断する検査はレントゲンやMRI、CT検査などの画像診断が一般的です。しかし骨折は一目瞭然ではなく、箇所によっては画像検査に出ないパターンも存在します。例えば手前側に折れているのに正面からレントゲン撮影しても、折れているかどうか判別ができません。
この場合は一方向からの画像検査ではなく全方位(特に左右)からの画像検査が望ましいです。このように、1回だけの撮影では気が付かない為、様々な角度から撮ってもらうようにしましょう。
Q:骨折の症状はどういう風に伝えればいいの? |
A:どのような行動・運動をすると、どこか痛くなるのか、を伝えましょう。 |
レントゲン画像で骨折だとわからなくても、違う方向から撮ったら折れていることが分かったケースも存在する為、画像診断で発覚しなかったからと諦めてはいけません。医師に自分の怪我の症状をしっかりと伝えて再検査をしてもらいましょう。痛みが出るのは、体が悲鳴を上げている証拠なのですから。
骨折の治療について
開放性骨折(骨が皮膚を突き破っている) | 折れた骨の断面や皮膚が空気にさらされてしまう為、感染症になり体内組織が壊死してしまう可能性があります。それを防ぐ為に早急に傷口の消毒と戦場を入念に行い感染症の対策を取ってから、折れた骨同士を接着する手術を行います。 |
閉鎖性骨折(折れた骨が体内にある) | 折れた骨がずれているか、ずれていないかによって治療方法がわかれます。ずれていた場合は手や器械、あるいは手術でずれを戻して正しい位置にした後、固定します。ずれていない場合はそのまま固定後安静です。 |
骨折の治療方法は、「骨を正しい位置に接着して、ギプスやコルセット、針金で固定した後、安静(保存)にする」です。骨は時間が経過すると癒合する為、骨同士がずれた状態で固定してしまうと、その後の運動やリハビリに影響が出ます。
また骨折は後遺障害が残りやすい怪我でもあるため、もしなってしまった場合は弁護士に早めに相談するのがおすすめです。弁護士にお願いする理由も含めて、骨折に関する詳しい内容はこちらの記事をご覧ください。
怪我の種類③ 捻挫
交通事故に限らず、怪我をして捻挫になりやすい体の部位は、足首が大多数です。主に歩行者(自転車に乗っている場合も含む)が自動車と接触して転倒した際に足首の関節に負担がかかって捻挫になります。
ここで注意したいのは足首をひねっただけだから大丈夫だろう、とむちうち症の治療を優先して足首の捻挫の治療を疎かにした結果、捻挫が「癖になる」被害者が多い事です。癖になる、という事は再び同じような怪我をする可能性が高く、またそのサイクルが短くなるのです。
つまり、表面上は治ったように見えて実際は全く解決していないケースです。
①RICE処置……安静(患部を固定して動かさない)・冷却(氷嚢を作って患部を冷やす)・圧迫(弾力のある包帯やスポンジで患部を覆って圧迫)・拳上(クッションで患部を心臓より上にもっていきそのまま維持)の処置の事。 それぞれを英語にした場合の頭文字をとってRICEと呼ばれる。 | ②病院……捻挫の場合、安静と固定を中心とした保存療法が多い。ギプスや三角巾で患部を固定し、腫れや痛みがひいたのを確認した後、リハビリを始める。 靭帯損傷などの重い怪我の場合は、手術になるケースがある。 |
捻挫は初期対応がとても大切です。交通事故以外でもスポーツや部活などで体の部位をひねって捻挫になる事が多く、一度は経験した人もいるのではないでしょうか。
捻挫の可能性がある場合は速やかに応急処置(※RICE処置)を行い、その後に病院に行きます。
怪我の種類④ 脊髄損傷
脊髄の損傷は怪我の中でも後遺症の恐れがあり、重症なケースが多い怪我の種類です。
脊髄は脊柱管の中にある中枢神経で、脳からの指令を手足などの神経に伝え、またその逆(手足→脳)の伝達を行う、人間にとって大切な神経です。交通事故に遭い、脊柱管が守っている脊髄に強い力が与えられたことで脊髄が損傷してしまうことを脊髄損傷といいます。
完全損傷 | 完全麻痺の状態。脊髄が裂かれた為、手足の末梢神経に脳からの命令が届かなくなる(途中でストップ)。手足などの四肢や体が動かなくなり、触覚などの感覚も届かなくなるため、感覚が消える。自律神経も損傷する為、体温調節や代謝機能がなくなり、常時介護が必要になる。 |
不完全損傷(中心性頸髄損傷) | 脊椎が傷を負うも完全に断裂したわけではなく。一部分の伝達機能が残った状態。麻痺や痺れが手足に残り筋肉も衰えるため、体を動かすことに制限が加わる。指先を使った作業(箸や筆記)ができなくなったり、歩くことが困難になるケースがある。感覚にも障害がおこる事があり、異常に発達したり、全く感じなくなったりする。 |
脊髄の最大の特徴は末梢神経とは違い、一度損傷した箇所の修復や再生が不可能ということです。つまり、脊髄損傷で残った手足の痺れなどの後遺症は一生治らない場合があるのです。
麻痺の症状も、運動機能や感覚が喪失する完全損傷と一部の機能だけ喪失する不完全損傷があります。
脊髄損傷の治療
脊髄損傷の治療は主に手術が基本です。脊椎そのものへの治療は研究途中のため、回復するのはほぼ無理でしょう。2018年時点で行える脊髄損傷の治療は、外部からの脊椎への圧迫感を取り除くことや、ぐらぐらしている脊椎を固定させて、脊椎損傷をこれ以上悪化させない、といったものです。
治療で使える保険の種類について
交通事故で怪我をした被害者にとって、治療費などの支出は大きな打撃になります。最終的に加害者側の保険会社に請求するケースが多いのですが、賠償金が確定するまでは被害者が立て替えているパターンも存在します。
もし立て替えていた場合、その治療費を保険会社に請求する事になる為、証拠として病院でもらう領収書を保管しておきましょう。
治療費の請求のやり取りは病院側と保険会社で進むケースが多い
原則として病院は患者である被害者に診察費(治療費)を請求します。しかし交通事故の被害者の対応に慣れている病院ですと、被害者に診察費を請求せずに、加害者側の保険会社に対して直接請求してくれます。
もし治療費の支払いを求められたら、「自分は交通事故の被害者なので、加害者の保険会社に請求してほしい」と伝えましょう。
加害者が任意保険に入っているならば、保険会社と病院でやり取りをしてくれるため、被害者側では特に問題にならないケースが多いようです。
加害者の保険会社が負担する場合、健康保険を使わない自由診療のため、保険会社からの治療費の支払いが止まった後も続けて通院する場合は健康保険が使えないのでは、と考えている被害者も多くいらっしゃいますが、それは誤解であり、交通事故の怪我の治療に対して健康保険を適用することは可能です。
交通事故の治療で健康保険は適用できる
交通事故で負った怪我の治療費を病院に支払う際に健康保険を出すと「交通事故の治療の場合、健康保険は使用できません」と断られるケースがあります。
これは「健康保険は、他者が原因の怪我や病気については負担しない」という認識があるからです。ですがこれらに関しては「第三者行為による傷病届」という書類を健康保険の組合に出せば解決できます。
1968年の時点で厚生労働省(旧厚生省)が「交通事故の治療において健康保険は適用できないという誤解がなされているが、それは間違いであり、健康保険は適用できる」という見解を示しています。つまり交通事故の怪我の治療で健康保険は適用できるのです。
保険診療と自由診療の違いは?
病院で受ける治療は主に保険診療と自由診療の2つが存在します。
保険診療
保険を適用して患者側が費用の3割を負担する治療
(国が認めた治療のみが治療の対象範囲)
自由診療
保険を適用せず患者側が費用の10割を負担する治療。
(様々な治療が可能な治療)
患者側の負担割合 | 治療対象範囲 | 点数ごとの金額 | |
---|---|---|---|
保険診療 | 3割負担 (7割は組合が支払う) | 国が認めた治療のみ | 1点=10円(一律) |
自由診療 | 10割負担 | 色んな治療ができる | 1点=10円~30円 (病院の裁量で決定) |
この二つの診療の特徴は上記の表が主になりますが、交通事故の被害者から見た最も大きな違いは費用負担が「全額負担か3割負担か」の部分になります。
保険診療は1点=10円とレセプト(※診療報酬明細書)の点数が一律ですが、自由診療の場合レセプトの点数はその病院に委ねられるため、病院によっては保険適応後より3倍近い治療費になる事も在ります。
治療内容によって、保険診療か自由診療のどちらが良いのか、別れるケースもありますので、治療対象範囲と負担割合を見て、判断するようにすると良いでしょう。
治療で健康保険を使用するメリット・デメリット
交通事故の怪我の治療時に、自身がおかれた状況によっては自賠責保険ではなく健康保険を使うことで、また自身の負担分の治療費を抑えることができます。
健康保険を利用すべき状況① 加害者が任意保険未加入のケース
健康保険を利用したほうがよい現状は、加害者が任意保険に未加入の場合です。任意保険に未加入の場合、自賠責保険のみでの対応になりますが、自賠責保険は最低限の補償のみの為、限度額が120万円と決められています(これより増えると加害者本人に請求する事になる)。
120万円の中には治療費や通院費はもちろん慰謝料も含まれる為、自由診療で支払っているうちに限度額を超えてしまい、慰謝料を請求する事が難しくなります。
しかし、治療費を健康保険で支払った場合は治療費を保険会社に請求する必要がない為、慰謝料等の他の内訳を請求する事ができます。
健康保険を利用すべき状況② 被害者の過失割合が高いケース
また被害者の過失割合も重要です。被害者の過失が7割を超えていた場合、自賠責保険を適応することができません。7割以下の過失でも、3割や4割といった過失割合がそこそこある場合も健康保険を使う事をおすすめします。
賠償金は過失相殺されるのですが、被害者の過失相殺は被害者が負担した金額が対象です。その為、被害者の負担額が少なければ少ないほど、受け取れる金額が多くなるのです。
健康保険を利用すべき状況③ ひき逃げ事故の被害者であるケース
事故がひき逃げで加害者が不明の場合、被害者は政府保証機関という国が運営する機関に損害賠償を請求します。ここは健康保険による治療を前提にしている為、必ず健康保険を適用させて治療を行いましょう。(また請求できる時効も2年と通常より1年短いので気を付けましょう)その他、ひき逃げについてはこちらの記事をご覧ください。
健康保険を使うことがデメリットになるケース
しかし健康保険を使った場合のデメリットも存在します。デメリットは保険適応外の治療が受けられない事や医師に診断書を書いてもらえなくなる可能性の二つです。
自由診療の場合は病院と保険会社で話し合われている為、特に問題はありません。健康保険で治療を受ける場合、病院は自賠責保険仕様の診断書(※診療報酬明細書なども含む)を書く義務がなくなる為、診断書の作成を拒否されるケースが稀に存在します。後遺障害等級の申請に至っては、被害者請求の場合、医師の診断書が無ければ申請も難しいでしょう。
基本的には診断書を書いてくれる医師が殆どですが、病院の考え方によっては健康保険や診断書の作成も拒否、というケースも在り得るので病院選びは慎重に行いましょう。
また健康保険で受けられなくなる保険適応外の治療は「病気、怪我が原因ではない治療」「先進医療」「労災保険に該当する交通事故の治療」などがあがります。労災保険と健康保険は二者択一ということで覚えておきましょう。
健康保険のメリットとデメリットをまとめると下記のイラストのようになります。
自賠責保険と任意保険の使い方について
交通事故に遭った被害者の怪我の治療費は加害者の任意保険会社が負担するケースが殆どです。
しかし事故の状況によっては加害者側の保険を使う事ができず、被害者自身の保険を使うことがありうるのです。
◆自賠責保険、任意保険が使えるケース | |
---|---|
自賠責保険 | 加害者の保険会社と全面的に争っていて、治療費が支払われないケースに適用できる。被害者が支払いを請求すれば病院に治療費を支払ってくれる。(但し、被害者の過失が7割以上の場合は不可) |
任意保険(例:人身傷害補償保険) | 加害者側が最初から治療費を支払われないケースや、被害者側に過失がある場合でも適用される(保険会社が支払っていて途中で止まった場合や、被害者が重大な過失や故意的な過失の場合は不可)。 |
被害者が任意保険に入っていて、なおかつ特約を付けていれば、その契約内容次第では自分の保険会社が損害賠償金を支払ってくれるため、
何かあった時のために任意保険はもちろん、特約もつけておくのがよいでしょう。
おすすめの任意保険の特約をこちらの記事で紹介しています。
労災保険を使うべき2つのケース
労災保険を使ったほうが良いケースは
「被害者側の過失割合が大きいケース」
「加害者側が自賠責保険のみ加入しているケース」
の2つがあります。
上記は業務上(もしくは通勤途中)の交通事故であること、という限定的な条件ですが、治療の際の保険に労災保険が使えるケースがあります。
◆労災保険を使ったほうがいいケース◆ |
---|
★被害者側の過失割合が大きい ★加害者側が自賠責保険のみ加入 |
労災保険を使うメリットとデメリット
労災保険を使用するメリットはこのようなものがあります。
メリット | ・保険料が不要(保険料は会社負担) ・過失相殺されない ・支給額に限度がない ・診療報酬単価が1点=12円と安い |
デメリット | ・治療費については治療費しか対象にない(入院雑費や通院費は×) ・慰謝料など支払われない項目がある ・休業損害の支払いが8割(自賠責は10割) |
労災保険の使い方
病院で治療をして労災保険を使う場合、労働基準監督署に「第三者行為の傷病届」を提出する必要があります。これは通勤中の交通事故など、加害者がいる労災の事を指します。
この書類をだす事で加害者側の自賠責保険と被害者の労災保険の支払いが重ならないように国側で調節するのです。その他の詳細についてはこちらの記事をご覧ください。
交通事故の治療時に気をつけたい4つのトラブル
ここでは、交通事故の示談や治療において比較的発生しやすい4つのトラブルとその対処法についてお伝えしていきます。
トラブル1 保険会社からの治療費の打ち切り
比較的発生しやすいトラブルのひとつに保険会社と治療費の支払いでもめるケースがあります。特に治療を続ける被害者に「そろそろ症状固定にしませんか?」と症状固定を促したり、あるいは「平均的な症状固定の期間を過ぎているので打ち切りますね」と一方的に言われることもあるのです。
トラブル2 過剰診療、高額診療
他にもおこりやすいトラブルは、過剰診療や高額診療です。この背景としては、診療を受ける人間と支払う人間が別であるという事や、保険会社の支払いは自由診療になる為に高額になりやすい事が挙げられます。
また立て替えていたとしても最終的に支払うのは加害者の保険会社で在る為、被害者は「治療費の金額がいくらか」というのは気にしません。自分が負担するわけでもないため、最も良い治療を受けようと考えてしまいます。
例えば、むちうち症の検査をするだけなのに高額な全身人間ドックの検査を受けた、という事です。この場合治療費として認められないケースが高いでしょう。
トラブル3 整骨院だけに通い診断書がもらえないケース
また、怪我の治療を病院ではなく整骨院だけに絞って通院している被害者も、結果として保険会社とのトラブルを引き起こしてしまいがちです。
保険会社は整骨院の治療を施術とみなしており、治療ではないと考えています。その為に治療費が支払われず被害者と揉めるケースもあるのです。
もし怪我の症状が残ってしまった場合、後遺障害等級を申請する事になりますが、後遺障害等級の申請に必要な診断書を書けるのは医師だけです。整骨院では書けません。
急いで病院に行き治療と診断書作成をお願いしても、医師は被害者の症状を最初から知らない為、診断書が書けないと断る可能性が高いでしょう。
つまり、整骨院だけに通院する事で「治療費や通院費が支払われない」「後遺障害等級が申請できない」という損害賠償の項目の大半を受け取れない事が考えられるのです。
トラブル4 病院に行くタイミングが遅れ、事故との因果関係を説明できない
交通事故の被害者でやってしまいがちなトラブルの一つが「病院に行かなかった結果、怪我と事故との関係を示せない」です。
例えば、交通事故に遭っても表立った怪我も痛みもなかったためにそのまま仕事をしてしまいます。そして数日後痛みが出てきても「これくらい大丈夫」と思って放置した結果、症状が悪化してしまい慌てて病院に行っても「この怪我は本当に事故が原因?」と保険会社に疑われてしまいます。場合によっては治療費を負担しなかったり、賠償金を支払わないケースに発展し、トラブルの原因になってしまいます。
むちうち症は事故当日に痛みがなく、数日経過してから痛みを誘発する症状が特徴のため、追突されたり車とぶつかった場合は痛みが無くてもすぐに病院に行き治療を始めましょう。
保険会社との治療トラブルの対処法回避法
ここでは実際に保険会社とのトラブルごとに、オススメの対処・回避法を
ご紹介していきます。
トラブル | 回避法・対処法 |
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保険会社からの治療費打ち切り | 打診された場合はすぐに答えず医師と相談する。 打ち切られた場合は健康保険に切り替えて通院する。 |
過剰診療、高額診療 | むち打ち症で長引きそうならば健康保険に切り替えておく。 |
整骨院だけに通う | 最初は病院に必ず通う。 整骨院に通うなら医師の許可を得る。 |
事故の因果関係を説明できず賠償金がもらえない | 事故に遭った当日(もしくは翌日)に病院に行き検査や診察をしてもらう(向かう病院は総合病院か整形外科医院) |
交通事故の治療に関して保険会社とトラブルになった場合は上記の対処方法があがります。
ポイントとしては保険会社から症状固定にしませんかといわれて、治療費の打ち切りのことを言われた場合は被害者一人で考えてはいけません。必ず医師に相談するようにしましょう。また治療費が打ち切られたからといって治療をやめてはいけません。
まだ痛みが残っている場合や医師からの判断がない場合は通うべきです。交通事故の治療には健康保険が適用できますので、そちらに切り替えて治療を継続しましょう。
治療を途中でやめてしまった事で、治るのも治らず怪我が放置されて後遺症として残ってしまう事も在ります。
後遺障害等級を申請しようにも、症状固定だと判断されていない事(症状固定日が不明)や医師の診察期間が不透明の時期がある為、後遺障害診断書が書けず、結果として後遺障害等級の認定を受けるための申請ができないケースがあるためです。
後遺障害等級に認定されなければ、いくら被害者が後遺症の痛みを訴えても保険会社は慰謝料を支払う事がありません。
示談成立に向け治療中にやるべき3つのポイント
交通事故の怪我の治療をしている時期から、示談交渉の準備は始まっているといっても過言ではありません。むしろこの時点でコツコツと行っておくと、いざ慰謝料増額の為の示談交渉をするときに優位になるのです。
ポイント①交通事故に好意的な病院を選んで通院する
交通事故に好意的な病院を選んで通院する理由とは?
*保険会社への治療費の請求の手続きを勝手にやってくれる
*後遺障害診断書の記載を断らない
*後遺障害診断書や診断書に強い医師の在籍が多い為、適切な等級になりやすい
交通事故に遭って救急車で搬送された場合は否めませんが、自力で行動することができ病院を選べる状況にある場合は、通う事になる病院をある程度絞るようにしましょう。
交通事故に理解のある病院の場合、こちらから言わずとも保険会社とやり取りを行い、治療費を保険会社に請求してくれますし、保険会社に提出する診断書も事細かに記載してくれます。後遺障害の認定の決め手となる後遺障害診断書も記入を断ることが無いと思われます。
通院は一定以上の頻度で通うように
治療のために通う通院の頻度も、一定以上をキープするようにしましょう。特に入通院慰謝料は被害者の通院期間に応じて慰謝料が計算されるため、ここの日数はとても重要です。
例えば、入院2週間・通院5ヶ月間の場合は入院日数14日分と、通院の150日分の慰謝料が認められます。しかし5ヶ月(150日)の間に20日間しか通院しなかった場合は週に1回通院ぺースになり、減額される可能性があります。
だからといって過剰に通院すると今度は過剰診療を疑われるため、あくまで医師の診察に従うのがベストです。
ポイント②治療に関わる領収書(レシート)はどんなものも保管する
治療に関わる領収書(レシート)はどんなものも保管する理由とは?
*健康保険を使って通院をした際に、被害者が負担した3割の治療費を請求する為に必要(計算する為)
*損害賠償請求をする際に治療にかかったあらゆる事柄の金額を明らかにするため(ガソリン代も請求できる)
病院で診察を受けて会計を済ませる時に領収書を受け取りますが、こちらは捨てずに保管しておきましょう。
特に健康保険を使って一部治療費を負担している場合は、最終的に加害者側の保険会社に負担した治療費を請求する為、猶更無くさないようにしましょう。
また通院の際にかかった駐車料金やガソリン代も、領収書を保管しておきます。これらは通院交通費として加害者にまとめて請求できるからです。
ポイント③交通事故の案件に強い弁護士に依頼する
交通事故の案件に強い弁護士に依頼する理由とは?
*保険会社の対応を任せられる為、精神的に楽になる
*被害者請求や後遺障害等級の申請も一任できる
*弁護士からのアドバイスを受けられる為、悩まなくてもいい
治療を行っている時期から示談交渉を見越して弁護士を探しておくのもおすすめです。示談交渉を前に慌てて弁護士を探すとなると吟味の時間が足りずに、交通事故が得意ではない弁護士に依頼する可能性があります。
通院の時期から弁護士に依頼しておけば、示談を見越した弁護士からの様々なアドバイスを受けられるうえ、被害者請求や後遺障害等級の申請も任せる事ができます。
交通事故の治療に関するよくある質問と答え
人身事故と物損事故によって治療費は変わる?
この二つで変わるといえば、「物損事故」は自賠責保険から治療費が支払われない(対応していない)ことじゃのう。
加害者側は「人身事故」に切り替えられてしまうと色々と面倒なので、保険会社が物損事故のままで被害者に治療費を支払う例も実は多いのじゃよ。
しかし、物損事故のままでは、治療費支払いの打ち切りが早まったり、後遺障害等級認定に不利になったりすることもあるから気をつけなければいかんのう。交通事故に遭って数日してからむちうちの症状が出てきた場合などは、早めに人身事故扱いに切り替えておいたほうが安心じゃ。
治療開始のタイミングが遅いと示談金に影響はある?
交通事故に遭ったときは、自覚症状がなくても当日か翌日中に、遅くても1週間以内には病院を受診して検査してもらうことが重要じゃ。
脳内出血など外からではわからない問題が見つかることもあるからのう。仕事が忙しいという理由で受診をあとまわしにした結果、あとから身体の痛みや不調などの症状が出ることもある。
しかし、事故から2週間以上経って病院に行っても、「事故との因果関係なし」と保険会社から示談を拒絶されてしまうことが多いのも現実だからのう。
その場合は、自分で症状と事故との因果関係を立証しなければならん。保険会社との示談交渉が難しいと感じるのであれば、弁護士に依頼したほうがよいじゃろう。
示談金額に納得がいかない場合、弁護士に依頼すると金額は変わる?
弁護士に依頼すれば、保険金が増額できる可能性がある。治療費はほぼ決まっておるが、逸失利益や慰謝料などの損害賠償金を計算する基準には、「自賠責保険基準」と「任意保険基準」と「弁護士基準」があるのじゃ。
弁護士基準で計算すると、自賠責保険基準で計算した金額の3倍近い金額になることもある。
だから、弁護士に依頼すれば損害賠償金が増額になる可能性が高くなるといえるじゃろう。ただし弁護士なら誰でもいいわけではなく、交通事故問題に詳しい実績のある弁護士に依頼することを忘れないようにしてほしいのう。
むちうちの治療は整骨院と病院の両方に通って問題ない?
むちうちの治療では病院と整骨院の両方に通うことは可能だが、まずは整形外科で診断を受けるのが先決じゃ。事故直後に医師の診断を受けないと、あとで首の痛みなどが出てきても交通事故との因果関係が疑われる場合もあるからのう。
また、「柔道整復師」などの国家資格を有している人の施術でないと、自賠責保険が適用されない点には注意が必要じゃ。保険会社に確認してから通うほうが安心といえるのう。
それに、病院にも並行して通院することを忘れないようにしないといかん。「後遺障害診断書」を作成できるのは医師だけじゃからのう。この診断書は「後遺障害等級」の認定に必要な重要書類なのじゃよ。
交通事故によるケガの治療の体験談を見る
治療費の請求交渉を有利に進めたい場合は弁護士に依頼がオススメ
交通事故でケガを負った場合、保険会社との示談交渉を弁護士に依頼することによって、治療費や慰謝料などの示談金を増額できるケースがあります。
初回相談料や着手金が0円の弁護士事務所もありますので、示談交渉に不安を感じたらまずは弁護士へ相談してみましょう。
【交通事故の示談を弁護士に依頼するメリット】
・専門知識が必要な示談交渉を弁護士に任せることにより、有利かつスムーズに示談交渉を進められる。
・相手方に請求する示談金を増額させることができる。
・通院中や入院中など、交通事故のダメージが残っているときでも、示談交渉を任せられるため、治療に専念できる。
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交通事故によるケガの治療に関する記事一覧
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交通事故によるむち打ちの症状固定までの期間は少なくとも半年以上の治療後が一般的 症状固定になる➡もう治療の意味がないとされる為、治療…
自賠責保険の支払限度額は\1,200,000。超えた分は任意保険から支払われる 傷害慰謝料の計算方法は、入院は入院日数、通院は実際の…
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