高齢運転者の交通事故は年々増加傾向にある
慰謝料の計算基準に「年齢」は含まれないので、高齢者という理由のみで慰謝料が変わることはない
高齢者は年齢が若い人に比べると、事故にあうことで将来稼げたであろう金額(遺失利益)が低くなる傾向がある
交通事故で高齢者の事故が多発しています。加害者のケースも多いのですが、やはり被害者のケースも多く見受けられます。
そして高齢者が被害者の場合、慰謝料は低くされるといわれますがその理由はどうしてなのでしょうか。高齢者の損害賠償金についてみていくことにします。
目次
交通事故は減っているのに高齢者の交通事故は増えているのは何故?
最近ニュースにも話題になっている、高齢者の運転ミスによる交通事故。昔は高齢者=被害者、若者=加害者というイメージがありましたが昨今は若者の運転低下もあり、若者=被害者、高齢者=加害者と逆転しつつあります。
何故高齢者の交通事故が目立つようになったのでしょうか?
データでみる!高齢者の交通事故
警視庁交通総務課統計・高齢運転者が第一当事者の場合の交通事故発生推移 | ||
---|---|---|
高齢運転者交通事故発生件数 | 事故全体に占める高齢運転者の割合 | |
平成20年 | 6,840 | 11.1 |
平成21年 | 6,883 | 12.2 |
平成22年 | 6,979 | 12.7 |
平成23年 | 6,923 | 13.4 |
平成24年 | 6,600 | 13.9 |
平成25年 | 6,341 | 15.1 |
平成26年 | 6,033 | 16.2 |
平成27年 | 5,806 | 16.9 |
平成28年 | 5,703 | 17.6 |
平成29年 | 5,876 | 17.9 |
警察による交通取り締まりの強化や交通状況の整備などに伴い、東京都内における交通事故の発生件数自体は減少傾向にあります。
しかし、高齢運転者(65歳以上の運転者)が関与する交通事故の割合は年々高くなっており、約2割近く高齢者が関わっています。
警視庁が発表している情報によれば、高齢運転者が第一当事者になっている交通事故の発生件数は平成20年は6,840件、その5年後の平成25年は6、341件、平成29年は5,876件となっています。
つまり10年間で1割減となっているわけです。ですが交通事故全体で高齢運転者が原因となった割合は平成20年は11.1%ですが、平成25年は15.1%、平成29年は17.9%となっています。逆にこちらは10年間で1割増となっているのです。
特に高齢運転者の年齢が75歳以上になると交通事故において死亡する割合が高くなっています。
警視庁が発表した情報によると、平成29年度の年齢層別死亡事故件数(免許人口10万人当たり)のうち、平均で75歳以上は7.7%、75歳未満は3.7%となっています。また75歳以上の免許保有率も年々増加しており、10年間で約2倍近く上昇しています。
その一方で、高齢者が被害者として交通事故に巻き込まれるケースも多く、平成30年に警察庁が発表したデータ(警察庁交通局交通企画課・交通事故統計より)では、高齢者の死者数が一番多いのは歩行中の事故であり、年齢別でも全体の約7割を占めています。(その他でも自動車乗車中、原付乗車中においても高齢者の死者率が全体の5割を占めているケースが殆どでした)
自分の身は自分で守る!身体能力に応じた行動を
違反別の交通事故にみると高齢運転者に最も多い違反は安全不確認で、全体の約4割を占めています。
これは年を重ねるにつれて動体視力を含めた身体機能が低下していき、危険の察知や発見が遅れがちになるからです。また早く発見しても身体が速く動かずにそのまま衝突するケースもあります。
このため、自分では安全運転を心がけているつもりでも周りからみると危険な運転になっていることが少なくありません。
特に「注意力・集中力の低下」「瞬間的判断能力の低下」「過去の経験に縛られる傾向」が高齢運転者の事故の原因で見られます。厄介なのは最後の「過去の経験に縛られる傾向」です。
長年培ってきた自分の運転技術を、年を取って身体能力が低下した状態でも実行可能だろうと考えてしまっている傾向があるからのです。
高齢運転者に多い事故の原因は「発見の遅れ」
高齢運転者の中には「慣れた道だから大丈夫」「ずっと運転してきたから大丈夫」という自信を持つ人がいます。
しかし彼らの慢心と油断が交通事故を引き起こすケースがあり、死亡事故という最悪の結果を招いてしまうのです。
高齢運転者の交通事故の人的要因は脇見やよそ見をしていた為に発見が遅れるパターンが全体の8割を占めています。
昨今のニュースで見かけるような、運転中にアクセルとブレーキを踏み間違えて追突する、高速道路を逆走する、停車しようとして店舗に突撃するという初歩的なミスが原因の交通事故が多いのも高齢運転者の特徴です。2010年から2012年までの統計データによると、高速道路を逆走した7割以上の運転者が高齢者でした。
一方歩行中の事故をみても、青信号の点滅中に横断しきれると思って渡り始めたところ途中で信号が変わり車に跳ねられてしまったケースのように、身体機能の低下による事故が多い傾向にあります。
夜間の歩行中の交通事故を防ぐためには、運転者から発見されやすくなるように明るい色の服装を心がけて、帽子や杖などの反射材用品を身に着けると良いでしょう。
2.交通事故の被害者が高齢者の場合、示談金が少なくなるのは本当?
交通事故に遭う被害者が高齢者だった場合、最終的に受け取れる損害賠償金が通常よりも少なくなる可能性があると言われています。何故そのように言われるのでしょうか。
元々高齢者が事故に遭った場合、同じ怪我や状況下に遭った若者よりも怪我が重症になりやすく、また怪我の回復も遅い(後遺障害にもなりやすい)為、若者に比べて慰謝料等を含む賠償金が増加しやすい傾向にあるといわれています。
高齢者は事故に遭わなければ貰えた利益(消極損害)が少なくなりやすい
交通事故の被害者は、加害者(またはその保険会社)に対して、治療費や入院費、交通費などの積極損害、後遺障害による逸失利益や休業損害等の消極損害、慰謝料を請求できます。
このうち積極損害は交通事故に遭った事で出費してしまった経済的損害を指すので、年齢が原因による金額の変動はありません。治療や交通費などかかった分だけ支払うからです。
しかし消極損害は交通事故に遭った事で、「得られたはずなのに得られなかった」損害を指します。
この損害は事故で休んでいる期間に得られなかった給料や収入、事故に遭わなければ受け取れていた未来の利益などがあります。高齢者はこの損害部分が貰えなかったり減額されるケースがあります。
慰謝料の金額基準に年齢は関係ない
慰謝料の種類 | 金額決定で重視される事柄 | |
---|---|---|
入通院慰謝料(傷害慰謝料) | 入通院の日数 | |
後遺障害慰謝料 | 後遺障害等級 | |
死亡慰謝料 | 被害者の家族における立ち位置 |
交通事故の被害者が高齢者の場合、慰謝料が少なくなるのではと思われてしまいますが、上記のように3つの慰謝料の金額の計算基準に年齢は含まれていません。従って高齢者だからと慰謝料が変動する事はありません。
入通院慰謝料は入通院の日数、後遺障害慰謝料は後遺障害の等級、死亡慰謝料は亡くなった人の家族での立ち位置を考慮して決定します。
かつて高齢者は人生を既に謳歌しているので交通事故で死亡しても大して精神的苦痛を被らないとされ、未来のある若者よりも慰謝料の金額を低く設定されることがありました。
しかし命の重さに裁判所が差をつけることは正しくなく、現在は年齢のみを理由に慰謝料に差を設けることはありません。
高齢者はなぜ事故に遭わなければ貰えた利益(消極損害)が低くなるの?
金額が確定している積極損害や基準が定まっている慰謝料と異なり、消極損害は事故に遭った時の年齢によって変動する可能性が高いです。
特に交通事故の被害者が高齢者の場合は消極損害が少なくなりやすい為、相手の保険会社も消極損害に該当する項目の金額を下げようとしてくるケースが高いでしょう。
この消極損害ですが、これは交通事故に遭わなければ被害者が獲得できていた金銭が、事故に遭った事で獲得する事ができなくなってしまった損害をさし、主に休業損害や逸失利益などが該当します。
休業損害は休んでいた時に失った給料分、逸失利益は後遺障害や死亡した為に失われたこれから生み出す予定だった利益分です。
休業損害=就労者が該当する損害
例えば日給1万円のAさんが事故に遭って1日仕事を休んだ場合、Aさんは1万円の休業損害が発生します。もしAさんが事故の治療で1週間休んだならば、Aさんの休業損害は7万円(1万円×7日)です。(※ここではわかりやすくするために1日当たりの基礎収入=日給、弁護士基準での車両保険、有給休暇を取得できなかった、と仮定しています)
Aさんは事故に遭わなければ仕事をして収入を得ていた筈です。このように事故によって得る機会が無くなったAさんの収入分を補填する事が休業損害の基本的な考え方です。
上記に対して仕事をしていない人が被害者の場合は、交通事故に遭わなくてもお金を得られなかったことには変わりないので休業損害は発生しません(内定が決まっていた、働く意欲がある人間など例外も勿論存在します)。休業損害についてはこちらの記事をご覧ください。
3.交通事故に遭った高齢者の逸失利益の求め方
消極損害の一つである「逸失利益」は、交通事故に遭い四肢のどこかを切断する事になった、後遺障害が残って労働能力が減少し、転職する事になったというように「交通事故に遭わなければ本来受け取ることができる筈の未来の収入が受け取れなくなった、少なくなった」損害を指します。交通事故で死亡してしまってもう収入が得られなくなった場合も該当します。
一般に高齢者は若者より長く生きられないので、未来の損害である逸失利益の金額は低くなりやすく、場合によっては受け取れないこともあります。しかし高齢者だからといって逸失利益を全く受け取れないわけではありません。
逸失利益の種類と計算式
逸失利益には「後遺障害逸失利益」「死亡逸失利益」が存在します。後遺障害逸失利益とは、後遺障害が残ってしまいこれのせいで減少した収入を指します。
死亡逸失利益は交通事故で死んでしまった時点で貰えなくなった収入を指します。両方とも「収入」を指している為、就労していない人は一部の例外を除き該当しません。
逸失利益の計算方法は下記のようになっています。
基礎収入×後遺障害による労働能力喪失率×労働能力喪失期間によるライプニッツ係数=後遺障害逸失利益
基礎収入×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対するライプニッツ係数=死亡逸失利益
専門用語のため難しく考えがちですが、逸失利益は「年収×定年までの残りの年数」が基本の考え方になっています。
しかし実際の計算式はこのように面倒かつ複雑になっています。その理由は逸失利益が損害賠償金と一緒に一括でまとめて支払われるからです。従って受け取った金額に利息が発生しその利息分を引く必要があります。その計算がライプニッツ係数ですが、こちらは下記で説明しています。
そして後遺障害による労働能力喪失率ですが、こちらは後遺障害で認定された等級ごとに決まっており、認定前と比べてどれくらい働けなくなっているのか(=労働能力を失っているのか)を示しています。
これらを含む逸失利益については、こちらの記事で詳しく説明している為、ご参照ください。
高齢者の労働能力喪失期間と就労可能年数の計算方法
労働能力喪失期間とは「後遺障害で症状固定になった日から一般的に働けるといわれる67歳までの年数」を指します。
この症状固定になった日は主に後遺障害診断書の作成日になる事が殆どです。従って67歳から後遺障害診断書の日付時点の年齢を減算すればこの期間は求められます。
また死亡時の就労可能年数も労働能力喪失期間同様の考え方で大丈夫です。
しかし例外は存在しており、未成年者や67歳より年上の高齢者等が主に該当します。高齢者の場合の労働能力喪失期間(就労可能年数)の求め方は以下のようになります。
*67歳以上=平均余命表の余命年数の2分の1 (※67歳以下で67歳までの年数が平均余命の2分の1より短い場合は平均余命の2分の1を取る)
▼参照 厚生労働省「平成29年簡易生命表の概況」
URL:https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life17/index.html
逸失利益にある中間利息控除(ライプニッツ係数)
逸失利益は将来得られる筈だったのに交通事故に遭って失った収入を、現時点で一括で受け取ることになります。未来の分を丸々受け取る為、銀行に預けておく人が多いでしょう。
銀行に預けるという事は利息がつきます。その為、交通事故に遭わなかった場合よりも被害者が受け取る利益が多くなってしまいます。
これを防ぐ為に将来かかるだろう利息分を引いて計算するのが中間利息控除の考えです。中間利息の数字としてライプニッツ係数や新ホフマン係数がありますが現在はライプニッツ係数を適用する傾向があります。
▼参照 国土交通省「就労可能年数とライプニッツ係数表」他資料
URL:http://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/04relief/info/other/data.html
死亡逸失利益の生活費控除率とは
生きていれば収入を得られますがその代わりに生活費を支払います。死亡した場合その時点から生活費がかからない為、本来支払うであろう生活費を控除する事が損害賠償の負担において公平になると考えられている為、死亡逸失利益の計算に生活費控除が入ってくるのです。
控除率は保険の各基準ごとに分かれており多くは扶養家族の人数で決められています。
弁護士基準 | ☆一家の支柱(被害者が養っている) | 扶養家族が1人→40% 扶養家族が2人以上→30% |
☆一家の支柱ではない女性(子供、妻、母親など) | 30% | |
☆一家の支柱ではない男性 | 50% | |
自賠責基準 | 被扶養者がいる | 35% |
被扶養者がいない | 50% | |
任意保険基準(旧基準) | 被扶養者が3人以上 | 30% |
被扶養者が2人 | 35% | |
被扶養者が1人 | 40% | |
被扶養者がいない | 50% |
高齢者の逸失利益の計算例
具体例① |
---|
年収150万円(年金生活)で扶養者が妻一人の71歳の男性が 亡くなった場合の死亡逸失利益 (死亡逸失利益=基礎収入×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対するライプニッツ係数) |
1,500,000×(1-0.4)×5.7864=5,207,760円 |
具体例② |
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年収180万円の82歳の男性が後遺障害等級9級に 該当した場合の後遺障害逸失利益 後遺障害逸失利益=基礎収入×後遺障害による労働能力喪失率×労働能力喪失期間によるライプニッツ係数 |
1,800,000×35%(0.35)×3.546=2,233,980円 |
上記のような計算で高齢者の逸失利益を求める事ができます。ただしあくまで基本の計算ですので、被害者のケースによっては上記の計算で求められない可能性もあります。
特に高齢者の逸失利益で問題になってくる点は「就労可能年数の求め方」と「年金は収入扱いになるのか」です。
年金に関しては逸失利益の計算の際に認められる年金と認められない年金が存在します。これらは明確に定められておらず個々の裁量において常に裁判で判断されますが、老齢年金は認められる傾向が強いです。
障害年金は本人が受給する分については認められますが家族の加算分は否定されやすく、遺族年金は認められない傾向が強いようです。
また無職であっても、家族のために家事をしている場合は専業主婦(主夫)と同様の計算が行われます。厚生労働省が出している賃金センサスの年齢別平均賃金を元に計算します。
賃金センサスの年齢別平均賃金などの求め方はこちらの記事で詳しく説明しています。
4.高齢者の賠償金額がわからなければ弁護士に相談しよう
元々高齢者は「自分は大丈夫だ」という気概やプライドもあり、運転ミスをして加害者になったり、逆に自分が被害者になってしまうケースもあります。肉体の衰えで事故を起こしてしまわないように細心の注意を払うようにしましょう。
交通事故の被害者が高齢者の場合も慰謝料や積極損害の請求金額は若者と変わりません。
しかし逸失利益や休業損害といった消極損害の金額が若者より減額される可能性が高く、結果として受け取れる損害賠償金額が低くなってしまいがちです。
しかし低くなるといっても請求できなくなるわけではありません。
上記のように67歳を過ぎても逸失利益を計算することができます。この辺りの示談金額の算定は「基礎収入」も含めて保険会社との争点になりやすく計算式もややこしい為、早いうちに交通事故に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。
交通事故の被害者になったら弁護士特約の利用をおすすめします!
交通事故で怪我を負った場合、弁護士特約が利用できると、費用の負担なしで弁護士に対応を依頼することが可能です。依頼を行う弁護士は自分自信で選ぶことも可能です。保険会社との示談交渉を弁護士に依頼することによって、治療費や慰謝料などの示談金を増額できるケースがあります。
初回相談料や着手金が0円の弁護士事務所もありますので、被害者になったらまずは自分が契約している保険会社に弁護士特約が使えるかどうかを確認し、利用可能な場合は弁護士へ相談してみましょう。
【弁護士特約を使って弁護士に依頼するメリット】
・費用の負担をせずに弁護士に依頼ができる
・専門知識が必要な示談交渉を弁護士に任せることにより、
有利かつスムーズに示談交渉を進められる。
・怪我をしている中で交渉にかかる心理的な負担が省ける
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