交通事故の損害賠償は「財産的損害」「精神的損害」に別れる
積極損害は交通事故に遭ったために「支払った」お金
消極損害は交通事故に遭ったために「手に入らなくなった」お金
交通事故による損害には、「財産的な損害」と「精神的な損害」があります。そして、前者の「財産的な損害」は、積極損害と消極損害に分けることができます。
ここでは、その積極損害と消極損害について詳しく説明します。
目次
損害賠償の内訳
交通事故における人身事故の被害者は加害者に自身が受けた損害を賠償金として請求することができます。
しかし、被害者が受けた損害は何でも加害者に請求できるわけではなく、法律にのっとった「損害」でなくてはなりません。また、被害者が加害者に必要以上の損害賠償を請求、または負担しないように損益相殺という考えも含まれています。
そしてそれら「損害」は大きく分けて「財産的損害」と「精神的損害」に別れています。
財産的損害
財産的損害は別名「経済的損害」といい、交通事故に遭った被害者の生活が一変したり、事故に遭った事で支払う事になった費用など、交通事故によって被害者の家計簿、財産に与えられた損害を指します。財産的損害は主に積極損害と消極損害の二つに分類されます。
精神的損害
精神的損害はいわゆる「慰謝料」です。その為、損害賠償=慰謝料ではない為、混合しないようにしましょう。精神的損害は交通事故の被害者が事故による精神的苦痛を受けた損害を指します。
例をあげるならば、交通事故によって重傷を負った被害者が怪我の痛みに耐えて入院生活を送ったり、退院後も後遺症として残った怪我の痛みを向き合って生活していくことに対する賠償です。
積極損害
財産的損害のうち、積極損害とは、交通事故に遭ったために、被害者が支出せざるを得なくなった金銭をさします。
違う言い方をすると「交通事故に遭わなければ支払う必要がなかったお金」と言うことになります。積極損害は下記の費用に区分けされます。
治療費 | 怪我の治療費は原則損害として認定。症状固定後の治療費は× |
---|---|
通院交通費 | 公共機関を利用しての金額、または既定のガソリン代や駐車場代、有料道路代などが認定される |
入通院付添費 | 怪我の程度によって医師が必要と判断したとき認定(指示書ほしい) 基準によって金額が変化 |
入院雑費 | 1日1,100~1,500円と決まっている。基準によって変化。 |
将来介護費・治療費・雑費 | 被害者がこれから介護や治療が必要になる生活になる場合、損害として認定。計算式がある。 |
自動車改造費・家屋改造費・装具、器具等購入費 | 被害者の怪我や後遺症の具合によって家や車を改造したり、医師の指示で車いすや義足などを購入する場合損害として認定。 |
葬儀関係費 | ほぼ金額が固定。支出が固定額を下回る場合は支出分が認定。 |
文書料 | 診断書や交通事故証明書などの文章作成費用 |
弁護士費用 | 裁判になった時加害者に損害額の10%が弁護士費用として認定される。 |
治療費
交通事故でケガを負い治療が必要となった時は、その治療費を加害者側に請求することができます。
しかし、医学的な必要性や合理性が認められない治療行為(※)や、一般的な治療費と比べて著しく治療費が高額である場合は、損害賠償が認められない可能性があります。(※一般に整骨院や鍼灸院などの施術などがあげられる)
通院交通費
被害者が治療を受けるために、病院に通うことで発生する交通費は、損害として加害者側に請求することができます。
その時、被害者も損害の拡大を防止する義務がありますので、原則として電車やバスなど公共交通機関を使用した料金となります。
タクシー代は、足を骨折したために歩行が困難であるなど、タクシーを利用する十分な理由がない限りは認められない可能性が極めて高いため、タクシーを利用する前に一度加害者側に相談するようにしましょう。
また、自家用車で通院する場合は、ガソリン代として自宅と治療先の通院距離に対して1km=15円になります。有料駐車場や高速道路などの有料道路を使用した際は、証明できるようにきちんと領収書やレシートを保管しておきましょう。
入通院付添費
被害者が入院中、または通院中のとき、(病院の看護体制や被害者の年齢、症状によって)職業付添人や近親者が被害者に付き添う必要がある場合は、その費用を加害者側に請求することができます。
この時、付き添う必要性がある事を証明する書類が医師からの指示書になりますので、必ず医師の指示書をもらうようにしてください。指示書がない場合は損害賠償が認められない可能性があります。
裁判・任意保険基準における入通院付添費
入院 | 職業付添人 | 実費の全額 |
家族などの近親者の付添 | 1日6500円 | |
自宅看護または通院 | 職業付添人 | 実費の全額 |
家族などの近親者の付添 | 1日3300円 |
被害者の入院・通院に関係なく、近親者が被害者に付き添わなくてはいけなくなったために仕事を休むことがあります。
その時仕事を休んだことで発生した休業損害が上記の裁判所基準を上回った場合、実際に減った給与収入などの損害額を請求することができる場合があります。
自賠責保険基準における入通院付添費
なお、上記はあくまで裁判基準・任意保険基準における入通院付添費であり、加害者が任意保険に加入しておらず、訴訟を起こさない場合は、上記の金額を受け取ることができません。その場合は、下記の自賠責基準となります。
入院 | 職業付添人 | 実費の全額 |
家族などの近親者の付添 | 1日4100円 | |
自宅看護または通院 | 職業付添人 | 実費の全額 |
家族などの近親者の付添 | 1日2050円 |
入院雑費
入院中には洗面道具や紙おむつ、タオルやティッシュペーパーなど、さまざまな雑費が必要となりますが、これらの費用も積極損害のひとつとして認められます。
診断書などにより入院の事実そのものが証明できれば、かかった費用の個々の金額について具体的に立証しなくても、一定の日額が認められます。なお、この入院雑費も自賠責保険基準と裁判所基準では金額が異なります。
自賠責保険基準 | 1日1100円 |
裁判所基準 | 1日1500円 |
将来介護費
交通事故に遭った被害者が植物状態(正式には遷延性意識障害)や高次脳機能障害などになってしまい、動けなくなる状態に陥ると被害者は介護が一生必要になります。
その場合、将来介護費として被害者の介護費用が損害賠償に組み込まれます。介護費の計算方法は以下の通りになります。
①年間(365日)の基準額 x ②生存可能期間に対するライプニッツ係数
各項目がどのように算出されるのか見てみましょう。
①年間の基準額
職業付添人は実費の全額、近親者の付添人は1日8,000円が目安となります。年間で示すために「¥8,000×365日」という計算になります。
症状によっては一人ではなく、複数の介護者が必要になる場合もあります。そして、被害者側が受けた損害を的確に加害者側に請求するために、介護の実態を詳細に説明する資料を準備する必要があります。
②生存可能期間に対するライプニッツ係数
生存可能期間(=被害者が生きている時間)は「平均余命年数とライプニッツ係数」を基に算定します。
ライプニッツ係数とは、将来的に受け取るはずの金銭を前倒しで一括でもらう為、その期間の利息を控除する考えから生まれた計算方法です(利息は利益になってしまう為)。ちなみに利息は法定で決められた金利5%になっています。
Q:交通事故に遭った被害者(男性)の介護を家族が残り45年行っていく場合の将来介護費用はいくらですか? |
A:¥51,900,080です。 |
計算式➡(8,000×365)×17.774=51,900,080
なお、遷延性意識障害(植物状態)やこれに近い症状の重度後遺障害者は、通常の人に比べて感染症にかかるリスクも高くなり、生存期間が短くなる可能性があります。そのため、平均余命年数より低い生存可能期間を用いた判例もあります。
平均余命年数より低い生存可能期間を用いた判例は稀なケースであり、多くは平均余命に合わせた生存可能期間を用います。
被害者の家族としても、平均余命よりも短い年数で算出することは抵抗があると思います。もし保険会社がそのような主張をしてきた場合、平均余命を基準とした生存可能期間を断固として主張するようにしましょう。
将来治療費
後遺障害によっては、症状固定の後も、現状を維持するために治療が必要となる場合があります。
この将来の治療費も損害として認められる可能性があります。
ちなみに、症状や経過によっては一時金ではなく、定期的に支払いを受ける方法もあります。
計算方法は下記の通りで、将来介護費とほとんど同じです。
年間に必要な医療費 × 生存可能期間に対するライプニッツ係数
Q:症状固定になっても治療が必要な男性の年間医療費が¥60,000で、残り35年間通う場合の将来治療費はいくら? |
A:下記の計算式で¥1,042,440です。 |
計算式➡60,000×16.374=1,042,440
将来雑費
将来介護が必要となる場合、紙おむつ、タオル、手袋などの介護に関わる費用が必要となり、損害賠償の対象となりますので、忘れずに請求しましょう。
また、将来雑費は項目ごとに費用が異なるため、必要な雑費を表にしたり、領収証を添付するなどして費用を明確にしましょう。ちなみに、将来雑費も一時金ではなく定期金で賠償を求める場合があります。
計算方法は以下の通りです。こちらも将来介護費や将来治療費とほとんど同じ計算方法です。
将来雑費の対象となる年額 x 生存可能期間に対するライプニッツ係数
自動車改造費
交通事故により後遺障害が残り、それまで使用していた自動車が運転できなくなるケースがあります。例えば、脊髄損傷などで下肢麻痺や他の症状が生じる場合、普通の乗用車では自力で乗り降りすることが困難になります。
そのような場合、被害者がひとりでも支障なく運転を行うために、自動車を改造する必要が生じます。この自動車改造費用も必要かつ相当な範囲が損害として認められます。
家屋改造費
また、後遺障害によっては、それまで暮らしてきた家で生活することが困難になる場合もあります。そのような場合、家のバリアフリー化などの改造が必要となり、その改造費用も損害として加害者側に請求することができます。
家屋改造費の具体例をいくつか紹介します。
- 車イスを使用するために玄関や廊下、出入口の段差解消機を設置
- 風呂場の湯船の取り替え
- 台所の設備の取り替え
- 階段に手すり・段差昇降機を設置 など
しかし、あくまで損害として認められる範囲は必要最小限に限られ、住居を快適や便利にしたりするための費用は認められません。
装具・器具等購入費
交通事故の後遺障害によっては、義手や義足、車イスなどの身体機能を補うための器具が必要になります。これらも損害として認められ、加害者側に請求することができます。
- 義手や義足、義眼など身体の不自由な機能を補うもの
- メガネやコンタクトレンズなど目の機能を補うもの
- 歩行補助器具
- 車イス
- 盲導犬
- 介護支援ベッドや介護用浴槽 など
また、義手や義足など、相当期間で交換が必要な器具に関しては、買い替え費用も耐用年数に応じて実費の範囲が認められます。
葬儀関係費
交通事故によって被害者が亡くなった場合、葬儀の費用を加害者側に請求することができます。人によって葬儀にかかる費用は異なりますが、ケースに応じて算定することが困難であるため、裁判基準・自賠責保険基準それぞれで、一律の金額が設定されています。
裁判基準 | 1,500,000 |
自賠責保険基準 | 600,000(必要かつ相当であれば1,000,000) |
なお、表の金額は上限であり、実際の支出額がこの金額を超えても、上限以上の金額は認められません。また、一律の金額が設けられているとは言え、実際の支出額がこの金額を下回っている場合は、実際の支出額が葬儀関係費として支払われます。
文書料
診断書や交通事故証明書、印鑑証明書などの文書を発行する手数料、成年後見開始の審判手続の費用など、損害賠償請求を行う際にかかった費用も損害として認められます。
しかし診断書に関しては、任意保険会社が治療費を直接支払っている場合は確認をする必要があります。何故なら任意保険会社は定期的に医療機関から診断書を取得し、診断書作成費用も直接支払いを行っていることが多いためです。
弁護士費用
被害者が弁護士を雇って裁判による判決を受ければ、認められた損害賠償額の約10%を弁護士費用として、加害者に請求することができます。
しかし保険会社に対して損害賠償を請求したり、示談によって解決した場合は弁護士費用を積極損害として請求することはできませんので要注意です。
なお、加害者に請求する弁護士費用と、実際に被害者が弁護士に支払う費用は無関係となります。
消極損害
積極損害とは別の消極損害とは、交通事故に遭ったために、入ってくるはずだった金銭が入ってこなくなる損害、つまり、「交通事故に遭わなければ被害者が手にしていたであろう金銭」を言います。
休業損害 | 交通事故に遭った被害者が怪我の治療の為休んだことにより失った収入 |
逸失利益 | 交通事故に遭ったことで被害者が失った利益(仕事を変えたことで事故前より収入が減ったなど) |
休業損害
休業損害とは、交通事故に遭わなければ被害者が働いて得られたであろう労働収入をさします。この休業損害は会社員・自営業・主婦など、被害者の労働形態によって算定方法が異なりますので要注意です。
また、有給休暇を使った場合や、休業によって賞与の減給、昇給の遅延があった場合も、休業損害として加害者側に請求できます。
逸失利益
交通事故に遭った被害者が後遺障害を負えば、被害者は事故以前の仕事ができなくなり仕事を変えなくてはいけなくなります。其の後に被害者がついた仕事の収入は事故前の仕事に比べて減少しているのが殆どです。
逸失利益とは、事故に遭ったことで失われた利益(収入)をさします。主に後遺症逸失利益と死亡逸失利益の2種類に分かれます。
後遺症逸失利益
後遺症逸失利益は、交通事故による後遺障害がなければ、被害者が将来得られていたであろう利益です。基本的な計算方法は下記の計算式になります。
基礎収入 x 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に応じたライプニッツ係数
基礎収入は被害者の労働形態によって算出方法が異なります。労働能力喪失率は、後遺障害の等級に応じておおよその数字は決められています。
労働能力喪失期間は、症状固定時の年齢から67歳までの期間となります。事故発生時の年齢ではないので、間違えないようにしましょう。
そして、ライプニッツ係数ですが、これは将来得られるはずだった利益を一括で受け取ることで、被害者が利息の分だけ利益を得ることを防ぐためのものです。「就労可能年数とライプニッツ係数表」から係数を把握します。
死亡逸失利益
死亡逸失利益は、被害者が交通事故に遭わずに生きていれば、将来得られていたであろう利益をさします。計算方法は、後遺症逸失利益とほとんど変わりません。
年収 × 就労可能年数に対するライプニッツ係数 × 生活費控除率
後遺症逸失利益と異なるのは、生活費控除率です。これは、被害者が生きている間にかかるであろう生活費の分を差し引くためのものです。一般的に、男性の場合は50%、女性の場合は30%程度になります。(損益相殺の考え方)
積極障害と消極損害についてのまとめ
損害賠償の内訳のうち、「財産的な損害」にあたる積極損害と消極損害についてみてきました。両方とも共通して言えることは「事故に遭わなければ手にすることはなかった」お金です。
特に注意したいのは数の区分けがおおい積極障害です。通常の治療費に加えて将来介護費など将来性にわたって請求するのもあるため、混乱する人も多いのではないでしょうか。
何より、損害賠償=慰謝料ではありません。このように多数に分かれているため、どうすればいいのかわからない人もいるはず。そういう方にはプロである弁護士に一任するのも手だといえるでしょう。ここ最近では相談料や着手金が無料の事務所も増えています。相談してみるだけでも手だといえますよ。
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