示談は一度きり。そのため損害額を確定させてから行うのがいい
示談書の内容は取り消し、変更不可。不備がないよう細心の注意を払うべし
違約条項、清算条項など大切なことを正確に書くこと
そもそも示談書とは、交通事故についての概要と解決内容(示談内容)を記載した書類です。事故の当事者がそれぞれ署名・捺印をしてはじめて効力をもつ書類です。しかしどのように書けばいいのかわからない人も多いのではないでしょうか。
基本的に保険を使う場合はその保険会社から送られてくるため、自身で用意する必要はありません。
ですがどう書けばいいのか、そもそも示談書のテンプレートってどんなものか気になる人がいると思いますので、示談書の書き方についてみていくことにします。
目次
前提として示談はやり直すことができない!
一度成立した示談は、詐欺や脅迫を理由に取り消し、錯乱を理由に無効を主張することはできますが、その主張を認めてもらうことは非常に難しく、後日それに反する証拠が見つかったとしても基本的にやり直しは認められません。
例えば、ケガが軽くすぐに治ると思って治療中に示談を行ったけれど、実際には治療が長引き、予測していた治療費を大幅に超えてしまったとしても、被害者は示談で決めた以上の治療費を請求することができません。
そのようなことがないよう、特別な事情がない限り、必ず治療が終了して損害額が確定してから示談は行うようにしましょう。
示談書に必ず記載するべき条項
金額に関して話がまとまり示談が成立すると、示談書(または免責証書)を作成することになります。上記の通り、示談は一度成立してしまうと内容を変更・取消しすることができません。そのため、示談書の内容に不備がないよう、細心の注意が必要となります。
その示談書に必ず記載するべきことは主に下記の7点です。
示談書に必ず記載するべきこと |
---|
|
それぞれの詳しいの説明と書き方を見てみましょう。
1.当事者と事故の特定
事故発生日・発生場所・事故の状況・被害者と加害者の氏名を記載し、いつ発生した交通事故について、誰が誰に損害賠償を支払うかを特定します。
記載例
○○(以下「甲」という)と△△(以下「乙」という)は、平成□□年□月□日午後□時□分頃、東京都××市××町××交差点において、横断歩行中の甲に、赤信号を無視して交差点に進入した乙が運転する普通乗用車が衝突し、甲が左脛骨骨折の傷害を負った事故(以下「本件事故」という)について、下記の通り示談を締結し、その証として本示談書を2通作成し、各自が所持するものとする。
2.示談金額
最終的に決まった加害者側が被害者側に支払う損害賠償の金額を記載します。
記載例
第○条
乙(加害者)は甲(被害者)に対して、本件事故の損害の賠償として、既払金のほか金△△△円の支払義務があることを認める。
3.支払方法
一括払いにするか分割払いにするかの支払方法と、支払期限を記載します。
豆知識:限り |
---|
法律用語で「末日限り」というのは「末日まで」という意味です。 |
記載例(一括払い)
第△条
乙(加害者)は甲(被害者)に対して、第○条の損害金を平成□□年□月□日限り、甲名義の銀行口座(××銀行××支店 普通口座 ×××××)に送金する方法により支払うものとする。なお、振込手数料は乙の負担とする。
記載例(分割払い)
第△条
乙(加害者)は甲(被害者)に対して、第○条の損害金を下記の通り分割し、甲名義の銀行口座(××銀行××支店 普通口座 ×××××)に送金する方法により支払うものとする。なお、振込手数料は乙の負担とする。
記
(1)平成25年12月末日限り 金500,000円
(2)平成26年1月から同年5月まで毎月末日限り 各金100,000円
4.違約条項
加害者側が決められた期限までに支払いをしなかった場合に備えた条項になります。加害者側に対して支払いの圧力となりますので、必ず記載するようにしましょう。
この条項で、残金の支払いと、その残金に対する支払期限の翌日から完結するまでの遅延損害金を定めます。基本的に、遅延損害金の割合は10%前後となることが多いです。
ちなみに、任意保険会社と示談をする場合は、任意保険会社が支払うことはほとんど確実なので、必ずしも違約条項が必要ということではありません。
記載例(一括払い)
第□条
乙(加害者)が第△条の支払いを怠った場合、乙は甲(被害者)に対して、第○条の損害金から既払金を控除した残金および残金に対する第△条の支払期限の翌日から支払済みまで年10パーセントの割合による金員を払うものとする。
記載例(分割払い)
分割払いの場合は、分割払いを2回または3回怠った時に、残金についてすぐに一括で支払うことを定めた期限の利益喪失条項を記載する必要があります。
第□条
乙(加害者)が第△条の支払いを2回以上怠った場合、乙は当然に期限の利益を喪失し、甲(被害者)に対して、第○条の損害金から既払金を控除した残金および残金に対する期限の利益を喪失した日の翌日から支払済みまで年10パーセントの割合による金員を支払うものとする。
5.留保条項
当事者は示談内容に拘束されますが、示談成立後に、示談成立時にはまったく予測できなかった後遺障害などの損害が発生した場合は、その損害については示談の効力は及ばず、加害者側に対して改めて損害賠償請求を行うことができます。
しかし、念のために下記のような後遺障害に関する留保条項を記載しておいた方が無難です。
記載例
第×条
将来、甲(被害者)に本件交通事故に起因する後遺障害が発生し、自賠責保険において後遺障害等級認定がされた場合は、甲と乙(加害者)は別途協議するものとする。
6.清算条項
示談は、示談で決められた損害賠償金の支払いなどをすることによって、交通事故に関する紛争を終局的に解決するための手段です。
これを明らかにするために、本件交通事故について示談書に定められたこと以外、当事者双方に請求権がないことを確認する清算条項を記載する必要があります。
清算条項を記載しないと、後日に加害者側から金員の支払いなど何らかの請求がされる可能性がありますので、忘れずに記載してください。
ちなみに金員っていうのは金額があやふやで、いくら!って完全に定まっていない金額を意味するんだよ。
記載例
第×条
甲(被害者)と乙(加害者)は、本件示談書に定めるほか、本件交通事故について何らの債権債務も存そないことを相互に確認する。
7.履行確保のための条項
加害者が未成年者の場合や、資力に問題があり損害賠償金が支払われない可能性がある場合は、未成年者の両親や、資力のある人に加害者の債務を連帯保証してもらうようにしましょう。
記載例(連帯保証条約)
第×条
丙(連帯保証人)は、本件交通事故に関する乙(加害者)の甲(被害者)に対する債務を連帯して保証するものとする。
また、加害者が示談書に記載された義務を遂行しなかった場合に、債務不履行として裁判をしなくても加害者の財産を差し押さえることができるよう、公証役場で公正証書を作成するという方法もあります。
実際の示談書はどのように書かれているのか
記載するべき条項を確認したところで、実際に示談書がどのように書かれているか見てみましょう。
平成26年12月15日
示談書
住所
被害者(甲) 印
住所
加害者(乙) 印
住所
加害者(丙) 印
住所
連帯保証人(丁) 印
甲、乙、丙および丁は、下記の交通事故(以下「本件交通事故」という)につき、本日、下記の通り示談を締結し、その証として本示談書を4通作成し、各自が所持するものとする。
記
事故発生日 | 平成26年2月10日午後8時30分頃 |
事故発生場所 | 東京都品川区西五反田○丁目○番○号先路上 |
加害者(保有者) | 乙 |
同(運転者) | 丙 |
加害車両 | 普通乗用車 |
被害者 | 甲 |
被害車両 | 普通乗用車 |
受傷程度 | 脳挫傷 |
後遺障害等級 | 7級4号 |
事故状況 | 信号機のある交差点内で甲運転の普通乗用車が右折のため停止後、 青矢印信号に従って右折を開始したところ、対向車線を直進してきた 乙運転の普通乗用車に衝突された事故。 |
第1条
乙および丙は、甲に対して、本件交通事故に関する損害賠償として、連帯して既払金540万円のほか、金2500万円の支払義務の存することを認める。
第2条
乙および丙は、前条の金員を下記の通り、分割して甲名義の銀行口座(□□銀行□□支店・普通口座・口座番号□□□□□)に送金する方法により支払うものとする。なお、振込手数料は乙および丙の負担とする。
(1)平成26年12月末日限り 金1000万円
(2)平成27年3月末日限り 金1000万円
(3)平成27年4月末日限り 金500万円
第3条
乙または丙が、甲に対して、前条記載の支払いを1回でも怠った場合、何らの通知や催告を要しないで、期限の利益を喪失し、直ちに残金金額および右金員につき期限の利益を喪失した日から支払済みに至るまで年1割の割合による遅延損害金を付加して支払う。
第4条
甲、乙および丙は、甲に、将来本件交通事故に起因する新たな後遺障害が発生し、自賠責保険において後遺障害等級認定がされた場合は、改めて協議をする。
第5条
丁は、甲に対して、乙および丙の甲に対する本件交通事故に関するすべての債務を連帯して保証する。
第6条
甲と乙および丙とは、本件交通事故に関して、本示談条項に定めるほかに何ら債権債務の存しないことを相互に確認する。
以上
労災保険の受給を予定している場合
示談内容によっては、その後の労災保険からの支給が受けられなくなる可能性があります。そのため、示談締結後に労災保険からの受給を予定している場合は、下記のような条項を記載するようにしましょう。
記載例
甲(被害者)と乙(加害者)は、乙が甲に支払う賠償金が甲の将来の労働者災害補償保険からの給付金に何らかの影響を及ぼさないことを相互に確認する。
示談書の書き方についてまとめ
示談書の書き方についてみていきました。
基本的に保険を使えば保険会社から書類が送られてくるため、自分で作成するのはまれなので頭を抱えてしまう方も多いと思います。
法律用語に隠れてしまっていて、つい先行イメージで悪い方法に見られがちですが、難しい事は書かれていません。
ですがもしも不安な方やこのままでよいか悩む人も多いと思います。そういう時にこそ法律のプロである弁護士に相談だけでもしてみてはいかがでしょうか。
交通事故の被害者になった場合、示談交渉を有利に進めたい場合は弁護士への依頼がおすすめです!
交通事故でケガを負った場合、保険会社との示談交渉を弁護士に依頼することによって、治療費や慰謝料などの示談金を増額できるケースがあります。
初回相談料や着手金が0円の弁護士事務所もありますので、示談交渉に不安を感じたらまずは弁護士へ相談してみましょう。
【交通事故の示談交渉を弁護士に依頼するメリット】
・専門知識が必要な示談交渉を弁護士に任せることにより、有利かつスムーズに示談交渉を進められる。
・相手方に請求する示談金を増額させることができる。
・通院中や入院中など、交通事故のダメージが残っているときでも、示談交渉を任せられるため、治療に専念できる。
↓ ↓ ↓
交通事故の示談交渉に関連する記事はこちら
被害者請求権(被害者から加害者への賠償請求)は3年で時効になる 時効は加害者と事故の損害を知った日が起算日 請求権の時効起算日は中…
示談の流れとしては、治療終了後に賠償金を確定させて過失割合と慰謝料について話し合う 示談を被害者自身でやろうとすると不慣れな交渉や精…
通勤中や勤務中に交通事故に遭うと労災保険を使用できる 労災保険には被災後のアフターケア制度がある 労災保険より先に健康保険を使って…
示談書は事故の当事者全員の署名、免責証書は被害者だけの署名が必要 免責証書は「この賠償金を受け取ったら、相手に対して一切の追加請求を…