調停委員2名と裁判官1人で構成され、当事者の話を聞き妥協案を出して示談を成立させるのが調停
裁判(訴訟)の解決方法は和解と判決の二つ
判決が出ても加害者が賠償金を支払わない場合、国が賠償金の回収を実行する強制執行がある
交通事故に遭った後、保険会社や加害者との示談が成立しなかった場合は、“調停”や“訴訟”といった法的手段により損害賠償を請求することが可能です。
ですが調停や訴訟のやり方がわからない、裁判の流れが知りたい人は多いはず。
そこでここでは調停や訴訟に関する手続きや流れ、裁判所が回収を実行する強制執行について説明していきます。
目次
示談が決裂したら次は調停へ。でも調停って何だろう?
種類? えーと、なんだっけ……あ、そうか!訴訟と調停か。
調停とは、示談などの話し合いにおいて以下のような状態になった際に行われます。裁判所が任命した調停委員2名と裁判官1名に間に入ってもらい、当事者同士の話し合いで和解を図るという手続きです。
★この状態のどれかに陥ったら調停を視野に入れよう★ |
---|
1.当事者同士では意見が大きく食い違って示談交渉が全く進まない |
調停の最初の段階では、加害者側と被害者側を別々に呼び出して話を聞きます。
話がまとまってくると次の段階に進み、両者を同席させます。同席の場にて調停委員が勧める折衷案で両者が妥協して、示談を成立させます。
調停のメリット:手続きが比較的簡単、代理人可能
調停の手続きは、法律の専門知識がない素人でも簡単に行うことができます。
また、調停の場に被害者本人が必ず出席しなければならないというルールはありません。その為、家族や交通事故の知識がある知人などを代理人に立てることが可能です。
調停の始め方
調停の申立ては、被害者が住んでいる地域を管轄する簡易裁判所に対して、事故状況とその損害、賠償額を書いた調停申立書を提出するだけです。
すると裁判所から、加害者と被害者のもとに呼出状が届きます。
加害者側が申立てることも可能
調停の申立ては被害者側の簡易裁判所に書類を提出するだけなので、被害者だけでなく加害者側が行うことも可能です。
加害者側の中には被害者側を脅す目的で調停を申立てる人もいます。裁判所から呼び出される事で裁判に慣れていない被害者を精神的に揺さぶり、加害者側に有利になるようにしているのです。
Q:加害者側から調停に呼び出されたらどうすればいいの? |
A:被害者側が取れる方法として二通りの行動があります。一つは、調停そのものが不利になるならば呼び出しに応じないで調停そのものを不成立にする事。もう一つは調停の内容や方法を聞いた上で納得できないならば調停案を断る事。 |
このように加害者側から調停に呼び出された場合、被害者として不利になりそうであれば、出頭しないで調停不成立にする方法もあります。
また、出頭はするけれど、調停のやり方や内容に納得がいかない場合は、調停案をきっぱりと拒否する方法もあります。
調停のデメリット:時間の無駄の可能性、調停委員に当たり外れがある
ですが調停は被害者にとって時間の無駄、というデメリットの意見があります。
その理由は、調停の要ともいえる調停委員の存在です。彼らの中には交通事故に関する知識がなかったり、また交通事故の知識不足故に保険会社の言いなりになってしまう可能性があるからです。
つまり、保険会社(加害者側)がマウントポジションを取った状態で調停が進行してしまった場合、被害者にとっては意味のないものになってしまいます。
そして交通事故に関して豊富な知識をもっている裁判官は、調停が大詰めを迎えた時にしか話合いの場に出席しません。その為場合によっては、交通事故に関する知識が乏しい調停委員が調停を取り仕切る可能性があります。
調停で和解が成立した場合
調停で話合い(示談)がまとまった場合は、裁判官の立会いのもとで調停内容が読み上げられます。調停が成立した時に作成される調停調書は、確定判決と同一の効力が与えられます。
そのため期限を過ぎても賠償金を支払わない等、調停調書の示談内容を加害者が履行しない場合は、裁判所のもとで財産や給料の差し押さえ等の強行執行に踏み切ることも可能です。
示談、調停でも解決しない場合は訴訟(裁判)へ
訴訟とは、裁判所に訴えて加害者側に被害者側の請求に近い損害賠償を支払ってもらうよう判決を求めるという、当事者同士にとってはまさに最後の手段といえます。
通常、裁判になると弁護士基準に近い賠償金の請求が認められます。加害者側・保険会社が提示していた自賠責基準や任意保険基準で算定された示談金額よりも高い賠償金を得ることができます。
訴訟手続きの流れ
基本的に訴訟や裁判や下記のような流れで進みます。
ですが当事者同士の状態によっては口頭弁論と証拠(書証)提出で、訴訟の進行がストップすることがあります。
1.裁判所に訴状を提出
★訴状の提出先★
訴額(請求額)が¥1,400,000より
上➡地方裁判所
下➡簡易裁判所
まず訴状を被害者の住所地・加害者の住所・事故が発生した住所のいずれかを管轄する裁判所に提出します。訴額が140万円以下の場合は簡易裁判所、140万円を超える場合は地方裁判所になるので注意が必要です
また訴額が60万円以下の場合は、少額訴訟の扱いになります。
豆知識:訴状 |
---|
裁判をするときに原告側(訴えを起こした側)が裁判所に提出する書面。 |
2.訴状審査
原告(裁判所に訴えた側)が提出した訴状を裁判所書記官が確認します。訴状に不備がある場合は、原告側に修正の指示があります。これが終わらなければ裁判が始まらないのでとても大切な所です。
3.口頭弁論
原告と被告(訴えられた側)がお互いの主張を法廷で述べます。
口頭弁論は、期日までに裁判所と相手側に主張内容を記載した書面を提出することで「主張を述べた」という扱いになります。
Q:どうして裁判所と相手側に書面を提出するだけでいいの? |
A:裁判所側の時間と作業の短縮の為です。書かれた内容を読み上げるだけでも時間がかかるため、表向きは「主張を法廷で述べた」とされていますが、実際は書面を提出するだけの暗黙の了解になっています。 |
この主張はあらかじめ裁判所と相手側に提出した書面に記載されており、裁判所に提出することで主張の全てが述べられたと見なされます。つまり、裁判所に毎回出向く必要はないのです。
主張に矛盾や不備がある場合は、裁判長が質問したり、次回までに明らかにするよう指示があります。
また口頭弁論は必要があれば何度も行われるため、上限回数は決まっていません。
4.争点および証拠の整理手続き
法廷から各係属部の準備室に移動し、弁論準備の手続きが行われます。この手続きの中で、次の証拠調べが合理的に行われるよう、双方の主張が整理されます。
5.証拠調べ
裁判所に提出した証拠を裁判所側が調べたり、証人に尋問などを行います。
まず、文書による証拠(書証)の場合は、口頭弁論期日・準備期日に関わらず、提出に応じて原本または写しの取り調べが行われます。
次に、当事者および証人(人証)の場合、争点整理が終わった後に、書証では証明できない部分を証人や当事者に尋問することで明らかにしていきます。こちらも場合によっては当事者や証人による「陳述書」という書証で提出されるケースがあります。
6.判決
判決期日に言渡しがされます。判決書に関しては、一般的に後日送付されるものを受け取ることになりますが、裁判所に出頭して受け取ることも可能です。
裁判の決着(解決)には判決と和解の2パターンがある
裁判(訴訟)は上記のような流れで行い、最終的に裁判所が下した判決によって決着がつきます。しかし裁判の途中で和解になり解決する場合もあります。
実際に交通事故の裁判案件の7割近くは和解によって解決されています。
判決の場合
判決とは、訴訟の手続きを終えて最終的に裁判所が下した結論を指します。
もしこの判決内容に不服がある場合は、更に上の裁判所(上級裁判所)に上訴(控訴と上告の総称)をすることで、再び裁判をやり直すことができます。しかし判決内容によっては上級裁判所に上訴しても棄却されるケースがあります。
上訴をせずに一定期間が経過すると判決が確定します。被告者(基本的に加害者)はこの判決に必ず従わなければなりません。
控訴 | 第一審に対する不服申立て |
上告 | 第二審に対する不服申立て |
和解の場合
裁判の途中で双方が譲歩したうえで合意し、裁判所で行う和解を「裁判上の和解」と呼びます。裁判外の和解(=ADRや調停)と比べて拘束力が非常に強力です。これを守らない場合、訴訟をしなくても相手への強制執行がいきなり可能です。
少額訴訟
通常の訴訟 | 少額訴訟 | |
---|---|---|
請求額 | 60万円以上 | 60万円以下 |
管轄裁判所 | 地方裁判所(140万円以上) 簡易裁判所(60~140万円以内) | 簡易裁判所 |
証拠 | どんな証拠でも | すぐに提出できる証拠のみ |
口頭弁論 | 必要に応じて何回でも | 1回 |
上訴 | 〇 | × |
物損事故や傷害事故でも被害額が少なく60万円以下の請求額になる場合は、訴訟を行っても少額訴訟という扱いになります。
少額訴訟では、原則として1回で双方の言い分を聞きながら証拠を調べ、直ちに判決が下されます。そのため通常の訴訟とは異なり、少額訴訟ではすぐに取調べができる証拠のみと制限があります。
また、判決に不服がある場合は上訴が可能な通常訴訟と比べ、少額訴訟は一審限りで終結するため、判決に対しての控訴をすることができません。
不服がある場合は、判決を下した簡易裁判所に対して異議を申立てることになります。異議が認められれば、少額訴訟から通常訴訟に手続きが移行します。
裁判を行うための費用はどれくらいかかるの?
被害者の中には「示談でなかなか解決できないけれど、お金がかかりそうな裁判を起こすぐらいだったら妥協してでも示談で…」と考えていらっしゃる方もいます。
しかし、そもそも裁判を起こす際にかかる費用はどのようなものがあるのでしょうか?
裁判所に支払う費用は訴訟内容で変動する
裁判を起こすための費用は、その裁判の内容(手続き)によって異なります。しかし内訳や大まかな金額は決まっています。
そして裁判所に必ず支払う訴訟費用を収入印紙と予納郵券(=切手)で納める必要があります。現金や振り込みではない為、間違えないようにしましょう。
ちなみに、証人が必要になった場合は、その証人の交通費や日当などもかかってきます。なお、裁判所に収める費用は原告が全面勝訴の場合、被告が全て負担することになります。
弁護士に支払う費用
また訴訟を起こすにあたり、弁護士に依頼したならばその分の費用も必要です。弁護士費用は主に相談料・着手金・報酬金の3つに分かれています。
弁護士費用は弁護士費用特約で支払えばお得!
もし弁護士を検討しているならば、自身が加入している任意保険のオプションに「弁護士費用特約」が含まれているか確認しましょう。
この弁護士費用特約は、弁護士を雇う際にかかる費用を任意保険会社が支払ってくれるというものです。
弁護士費用特約の弁護士費用の上限は一般的に300万円です。死亡事故や重大な事案ではなく一般的な交通事故の傷害案件の場合、300万円以内に収まるケースが殆どです。つまりこの特約を利用すれば実質0円で弁護士を雇うことができるのです。
判決が出ても加害者が無視をしたら強制執行に移行
苦労して勝ち取った判決であっても、被告(主に加害者)が判決などまったく意に介さず、損害賠償金を支払わないケースが存在します。こうした判決を無視した被告に対しては、強制執行を行います。
強制執行とは、権利者の権利内容を国家機関が強制的に実現してくれる手続きです。
例えば、判決で出た損害賠償金を被告が全く支払わない場合は、判決に基づいて裁判所や執行官などの執行機関が被告の財産(銀行通帳や給料等)を差し押さえて強制的に賠償金を回収し、原告に支払います。
強制執行を実行するために必要な3つの書類
強制執行を実行するためには、根拠となる債務名義を手に入れる必要があります。
債務名義とは、主に判決文ですが、他にも執行受諾文言付公正証書や調停調書、和解調書、仮執行宣言付支払督促などがあります。
豆知識:債務名義 |
---|
差し押さえをする際に絶対に必要になる書面。 |
★強制執行を行うために必要な3つの書類★ |
---|
1.債務名義 |
債務名義を入手したら、その債務名義の末尾に「強制執行をしてもよい」という執行文を裁判所に追加してもらいます。
そして、債務者に強制執行の予告を行い、確かに債務者が予告を受け取ったという送達証明書を手に入れます。
この債務名義・執行文(が追加された債務名義)・送達証明書の3点が揃って初めて、強制執行を行うことができます。
まとめ・交通事故の訴訟と調停
交通事故における調停や訴訟の方法や違いについてみてきました。
よく裁判と称されるこの二つは目的も方法も違うので注意が必要です。またこの調停や訴訟を行う場合、示談と違って専門用語や知識、時間やお金を使って行うことにもなるうえ、相手はその道のプロの弁護士を雇って対抗してくる可能性が高いでしょう。
その為、場合によってはこちらの訴訟損になってしまいます。もし調停や訴訟などの裁判を起こすのであればこちらも弁護士を雇うのが必須といえます。
強制執行の存在も忘れずに
また、調停の結果を無視した相手に対して強制執行という国による差し押さえの選択肢もあります。
差し押さえは司法の力なので一個人がどうにもすることはできません。故にこちらを検討に入れながら調停にして和解するか、訴訟をおこして判決までもっていくか、決めるのはあなた自身です。
交通事故の被害者になった場合、示談交渉を有利に進めたい場合は弁護士への依頼がおすすめです!
交通事故でケガを負った場合、保険会社との示談交渉を弁護士に依頼することによって、治療費や慰謝料などの示談金を増額できるケースがあります。
初回相談料や着手金が0円の弁護士事務所もありますので、示談交渉に不安を感じたらまずは弁護士へ相談してみましょう。
【交通事故の示談交渉を弁護士に依頼するメリット】
・専門知識が必要な示談交渉を弁護士に任せることにより、有利かつスムーズに示談交渉を進められる。
・相手方に請求する示談金を増額させることができる。
・通院中や入院中など、交通事故のダメージが残っているときでも、示談交渉を任せられるため、治療に専念できる。
↓ ↓ ↓
交通事故の示談に関連する記事はこちら
事故後の被害者の行動によっては被害者側の過失割合が増える可能性がある 交通事故の過失割合に納得がいかない場合は「相手を説得する」「A…
検察官とは書類をもとに加害者の処分を決定できる権利を持っている 被害者が何もしなければ加害者はそのまま不起訴処分になる可能性が高い …
ADRとは中立の立場の専門家が双方の意見を聞いて折衷案を提示する手続き ADRは紛争解決を優先するため、使用できるケースが限られてい…
弁護士費用は着手金と報酬金と実費&日当 弁護士費用は弁護士が自由に決められる 弁護士費用特約を使えば費用倒れの心配なし 目次1 示…
交通事故の被害者が、事故の手続きについて弁護士に依頼をした場合でも、その弁護士費用は被害者自身が負担しなければならないのでしょうか。 そうで…