交通事故の被害者となった場合、治療費や修理費などの費用は示談金として加害者に負担してもらえますが、自分にも非があった場合は示談金が減額されてしまいます。
交通事故の当事者間において、互いの過失の程度を数値化したものを“過失割合”と呼び、過失割合によって示談金が決定します。
過失割合に納得できる場合はさておき、納得できずに「保険会社から提示された割合がそもそも適正なのか」「どうしてこの割合なのか説明が欲しい」と問い詰めてトラブルになるケースも多くあります。
ここでは、交通事故の過失割合は誰がどうやって決めているのか、トラブルにならないためにどう対応したら良いのかを説明します。
交通事故の多くは、加害者が一方的に悪いわけではなく、被害者にも少なからず落ち度があります。そのため、その被害者の落ち度の割合(過失割合)だけ、加害者の損害賠償責任が軽減されます。この作業を過失相殺と言います。
ここでは、その過失割合と過失相殺について詳しく説明します。
目次
非常に重要な過失割合と過失相殺
交通事故が発生したとき、加害者に落ち度があるのはもちろんですが、実は加害者が一方的に悪いというケースは稀です。ほとんどの場合は被害者側にも何らかの落ち度があります。
被害者の過失の割合だけ賠償金が減額
例えば、近くに横断歩道があるにも関わらず、被害者が横断歩道のない車道を渡って車と衝突した場合、車の運転手だけでなく被害者側にも過失があったと見なされます。
そして、被害者が被った損害のうち、被害者側の過失に対応する部分を、加害者は損害賠償の責任を免れます。
上記の例の場合、交通事故の損害額が100万円だとします。加害者の過失が70、被害者の過失が30になった場合、被害者が請求できる損害賠償金は、過失相殺によって100万円の7割である70万円に減額されます。
過失割合
交通事故で被害者に落ち度(過失)があった場合、加害者側と被害者側の当事者間でお互いの過失の程度を割合化したものです。
過失相殺
過失割合に応じて、被害者が加害者に対して請求できる損害賠償全体から減額する方法です。
過失相殺による減額金額の計算方法
医療費など全て含めたすべての損害賠償額 × 過失割合
事故内容の事実確認が重要
保険会社は、被害者側に過失があれば(被害者側に過失がない可能性もあります)、必ず過失割合に応じた損害賠償金の減額を主張してきます。
過失割合を決めるためには、交通事故がどのように起きたか事実関係を確認する作業が極めて重要になります。しかし、この事実関係を確認するにあたり、加害者側と被害者側の間で主張が食い違いやすく、結果として最終的な賠償金額に大きな差が出る可能性があります。
事故後の要素も過失相殺の対象に
過失相殺が行われるのは、交通事故発生時の過失だけではなく、事故後の治療過程の過失も相殺の対象となります。
例えば、被害者が医師に指示された治療方針に従わなかったためにケガが悪化し、損害が拡大した場合は、過失と見なされ拡大した分の損害を被害者が負担することになります。
これは、被害者には交通事故によって傷害を負った場合、その傷害を拡大させてはならない注意義務があるためです。
交通事故における過失割合の決め方
過失割合を決めると言っても事故の状態は千差万別であり、ケースごとに異なります。そのため、過失割合を決めるには、具体的な事情を加味した上で判断することが必要になります。
しかし、毎回ケースに合わせて裁判所が事故の割合を決定していては、被害者の早期救済ができなくなってしまいます。そのうえ、一見似たような事故であるのに過失の割合が異なると、公平さが期待できなくなります。
過失相殺率の認定基準
そこで、過失割合についての判断は裁判所・弁護士・保険会社がすべて同一の基準を用いて算定しています。その基準となる本が『民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準』(判例タイムズ社刊)です。
この過失相殺の基準となる本には、典型的な交通事故のパターンについて、基本となる過失割合が記載されており、さらにそれを修正するための要素を考慮し、修正率を加算や減算します。
ここで、1つの典型的な交通事故のパターンを例に、基準を使って過失割合を出してみましょう。
例:十字路において、直進車Ⓐと右折車Ⓑが衝突した場合
直進車Ⓐに右折車Ⓑが衝突した場合の基本の割合は「Ⓐが20、Ⓑが80」となります。この基本割合をベースにして、事故の過失の要素を加味して割合を決めます。
基本 | Ⓐ20:Ⓑ80 | |
---|---|---|
修正要素 | Ⓑ即右折 | +20 |
Ⓐ法50条違反の交差点 | * | |
Ⓐ15km以上の速度違反 | +10 | |
Ⓐ30km以上の速度違反 | +20 | |
Ⓐその他の著しい過失 | +10 | |
Ⓐその他の重過失 | +20 | |
Ⓑ徐行なし | -10 | |
Ⓑ直近右折 | -10 | |
Ⓑ早回り右折 | -5 | |
Ⓑ大回り右折 | -5 | |
Ⓑ合図なし | -10 | |
Ⓑその他の著しい過失・重過失 | -10 |
表に「修正要素」と記載されているもののうち、Ⓑと記載されているものはⒷの事情でⒶと記載されているものはⒶの事情です。「*」は修正要素として含まないものです。
例:Ⓑ車が徐行をせず交差点に進入し、事故が発生した場合
過失割合の表に当てはめると、「-10」とあります。この場合はⒶの基本過失20%から10%をマイナスし、Ⓑの過失を10%プラスして「Ⓐが10、Ⓑが90」の過失割合となります。
過失割合の決定に重要となる刑事記録
交通事故の事情が、判例と全く一緒になることはほとんどありません。そのため、裁判で過失割合を決めるにあたり、過失割合の配分は裁判官次第と言っても過言ではありません。
そこで必要になるのが、裁判官などにわかりやすいよう、事故現場の写真や図などを使って、事故の状況を理解してもらう努力です。そして、ここで最も重視される資料が刑事記録です。
刑事記録の入手には時間と申請が必要
刑事記録とは、事故発生直後の現場の様子などを警察が客観的にまとめた「実況見分調書」と、事故の当事者や目撃者の言い分をまとめた「供述調書」などをさし、特にこの2つが重要になります。
この資料を見るためには、被害者や弁護士が、検察庁または裁判所に送付・閲覧の申請をする必要があります。ちなみに、事件の扱われ方がどの段階によって、申請先が異なります。
また、申請をしてから入手できるまでに多少時間がかかりますので、過失割合で加害者側と争い、裁判にもつれ込みそうであれば、早めに取り寄せるようにしましょう。
過失割合が変更されるケースもある
加害者側と過失割合の話がまとまり、あとは示談を待つだけという場面で、加害者側の保険会社から突然「過失割合が変更になりました」と告げられるケースがあります。その変更が被害者にとって不利な場合、被害者としてはどうすれば良いのでしょうか。
なぜ過失割合が変更されるのか
そもそも一度決まった過失割合がなぜ変更されるのでしょうか。
過失割合の変更は多くの場合、新たな証拠が出てきたことで行われます。例えば、被害者が信号無視をしていた、被害者がスピード違反をしていたなど、加害者側にも過失が認められる新たな事情が判明した場合です。
「加害者100:被害者0の過失割合と聞いていたのに」と変更に納得できない被害者が多いですが、被害者にとって不利な証拠や事情が見つかったのであれば、裁判で再度争ったとしても加害者100:被害者0の過失割合に戻すことは非常に困難です。
変更後の過失割合が適切であるか弁護士に相談しよう
このように、被害者にとって不利な過失割合の変更が行われるケースがありますが、被害者としては、この変更の割合が妥当であるか冷静に検討する必要があります。
自分がしてしまった過失を賠償するのは、被害者であっても当然のことです。しかし、被害者にも過失があると判明するや、加害者側の過失割合を少しでも減らそうとする保険会社もいるかもしれません。
そのため、過失割合が変更された場合は、適切であるか専門的な知識がある弁護士などに相談するようにしましょう。
自賠責保険と任意保険では算出法が異なる
過失相殺は被害者の過失割合に応じて、損害賠償金を減額する制度ということはわかりました。では、自賠責保険と任意保険では、過失相殺の方法が異なるのでしょうか?
自賠責保険の過失相殺の方法
自賠責保険は、被害者が比較的軽度な過失ではなく、下記のような重大な過失(重過失)の場合のみ過失相殺を行います。
「被害者が重過失」であると認識されるケース
- 被害者が信号を無視して道路を横断した場合
- 横断が禁止されている場所で横断した場合
- 道路上で寝ていた場合
- 信号を無視して交差点に進入し衝突した場合
- センターラインを越えて衝突した場合
さらに、過失相殺される減額率も定額化されており、死亡と後遺障害が発生した場合は、20%・30%・50%の3段階、傷害の場合は20%のみです。
任意保険の過失相殺の方法
これに対し、任意保険は、被害者が重過失の場合だけでなく、比較的軽度な過失である場合も過失相殺の対象とします。つまり、過失の程度に関わらず過失相殺を行うのです。
過失相殺によって減額する率は、過失割合認定基準表から過失割合を出し、それに従って減額することになります。任意保険は、実際に発生した損害を補償する制度であるため、軽度な過失であっても過失相殺が行われ、相殺率が決められます。
任意保険における過失相殺の計算方法
過失相殺する額の計算方法は、まず被害者の損害の総額を算出し、その総額に被害者の過失割合を掛け、その額を総額から引きます。そして、引いた後の額から自賠責保険から支払われた保険金を引きます。その残りが任意保険から支払われる金額になります。
ちなみに、自賠責保険で損害額が補えた場合は、任意保険からの支払いはありません。
人損と物損の過失割合が違う場合
交通事故によっては、同じ交通事故から発生した損害であっても、人損(人身に関する損害)と物損(物に関する損害)で過失割合が異なるケースがあります。
そもそも、人損は休業による収入の減少や後遺障害などを伴うため、物損に比べ過失割合を被害者に厚く考慮する傾向があります。
そのため、保険会社が乗用車などの物損について厳しい過失割合を示す場合があります。例えば、被害者の傷害に関する過失割合は、加害者80:被害者20であるのに対して、乗用車の破損に関する過失割合は、加害者70:被害者30と判断される可能性があるということです。
裁判の過失割合は基本的に人損=物損
示談交渉においては、このように人損と物損の過失割合が異なる場合がありますが、裁判では、原則として人損と物損の過失割合が異なることはありません。そのため、示談交渉で物損に関する過失割合に納得ができない場合は、示談を断って訴訟に備えるようにしましょう。
労災保険が適用される場合の過失相殺
被害者が、仕事中や通勤中に交通事故に遭った場合、労災保険(労働者災害補償保険)が適用されます。この労災保険が適用され、かつ過失相殺がなされる場合、加害者側が支払うべき賠償金額の計算方法は2つあります。
- まず被害者の総損害額を算出してから過失相殺を適用し、その残額から労災保険の給付金を差し引いた金額が、加害者側が支払うべき賠償額となる計算方法
- 総損害額を算出した後、まず労災保険から給付された金額を差し引き、その残額に過失相殺をして賠償額を出す計算方法
一つの例を使って、それぞれの計算方法で加害者側の賠償額を算出してみましょう。
被害者 | タクシー会社勤務の男性 |
被害者の症状 | 等級2級の後遺障害が残る重傷 |
過失割合 | 加害者70:被害者30 |
総損害額 | 1500万円 |
労災保険の給付額 | 700万円 |
過失相殺を先に適用させる方法
総損害額1500万円の加害者の過失割合70%である1050万円から、労災保険の給付金700万円を差し引いた350万円が、加害者側が支払う賠償額になります。
(被害総額1500万円の70%=1050万円)ー(労災給付金700万円)=賠償額350万円
過失相殺を後に適用させる方法
総損害総額1500万円から労災保険の給付金700万円を差し引き、800万円の加害者の過失割合70%である560万円が、加害者側が支払う賠償額になります。
(被害総額1500万円ー労災給付金700万円=800万円)×過失(70%)=賠償額560万円
裁判では①の計算方法を使う
2つの方法を紹介しましたが、主に裁判で使われている方法は、前者の過失相殺を先に適用させる方法です。しかし、ケースによって異なる可能性がありますので、その都度で確認する必要があります。
保険会社が示す過失割合に納得できない
加害者側の保険会社が掲示する過失割合に納得できず、民事裁判を起こしたとしても、保険会社が『民事交通起訴における過失相殺率の認定基準』を参考にしているのであれば、裁判所も同じ基準を用いているため、同じような過失割合で判断が下される可能性は高いです。
過去の裁判例と比べてみよう
しかし、あくまで基準表を参考にしただけであって、保険会社が提示する過失割合が絶対に正しいかと言うと、決してそういうわけではありません。
そのため、保険会社が示す過失割合が適切なものであるかどうか、自身の事故類型と過去の裁判例を照らし合わせ、妥当な過失割合であるか検討する必要があります。そして、妥当ではないと判断した場合は、保険会社に過失割合の修正を求めましょう。
過失割合の算定は弁護士などの専門家に依頼しよう!
過失割合の基準表は、多くの裁判例をもとづいて作成されたと言っても、典型的な交通事故における過失割合について記載しているにすぎず、事故特有の特殊事情までは考慮されていません。つまり、非典型的な事故においては、そもそも基準表に記載されていない可能性があるのです。
このように、過失割合を決めることは非常に難しく、加害者側との激しい争いになり易いポイントでもあります。仮に裁判となった場合、どの様な過失割合になるのかの見通しを立てるためにも、弁護士による法的なアドバイスを求めるのが一番効率的な解決策と言えます。
保険会社が提示してきた過失割合に納得がいかない場合は弁護士への依頼がおすすめです!
交通事故で被害者になった場合、どうしても過失割合に納得がいかないことがあると思います。そんな時は、保険会社との示談交渉を弁護士に依頼することによって、治療費や慰謝料などの示談金を増額できるケースがあります。初回相談料や着手金が0円の弁護士事務所もありますので、示談交渉に不安を感じたらまずは相談してみましょう。
【弁護士に過失割合の交渉依頼をするメリット】
・専門知識が必要な示談交渉を弁護士に任せることにより、有利かつスムーズに示談交渉を進められる。
・通院中や入院中など、交通事故のダメージが残っているときでも、示談交渉を任せられるため、治療に専念できる。
・怪我をしている中で交渉にかかる精神的な負担も省ける。
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