被害者の治療があまりにも長いと、心因的な要因ではないかと判断される可能性がある
被害者の持病が影響して治療が長期化した場合、損害賠償額は持病の相当額を減額する
あくまでも、治療は交通事故による怪我の治療かどうかが重要
交通事故に遭った被害者によっては、交通事故に遭ったショックや持病の影響で入院や通院期間が通常より長くなることがあります。
そのような場合でも、治療にかかった入院期間または通院期間の全ての費用を加害者側に損害賠償や慰謝料として請求することができるのでしょうか?
具体例も交えてみていきます。
目次
心因性が原因で治療が長期化した場合
交通事故に遭った被害者が怪我を負って治療を余儀なくされた場合、ケガの程度や状態によって治療・入院期間も変わってきます。そして怪我によってその期間の大体の目安は決まっているため、保険会社はその目安に従った分の賠償額が算定します。
しかし、被害者によっては、事故のショックによる心因的な要因から、怪我による入院・通院期間が長期化するケースがあります。この場合、長引いた治療にかかった費用を加害者側に請求することができるのでしょうか?
交通事故の怪我による通院期間はある程度決められており、それを大幅に超える場合は事故と直接の関係がない治療とみなされるケースがあります。
実際に、交通事故の裁判例において、被害者の精神的なものや性格の問題から事故の治療が大幅に長期化した場合は、公平な見地から損害賠償の減額を認めたというケースがあります。
ポイント
・交通事故による怪我の通院期間はある程度決まっている
・治療が例がないほど長期化すると、怪我よりも心因的なものによる治療だと思われる
・心因的なものによる治療とみなされると、交通事故と直接関係がない治療と判断されて損害賠償が減額されるケースもある
治療の長期化が精神的なものが原因だと判断される基準の例
Aさんが追突事故により「ムチ打ち症」と診断され、3ヶ月間の入院の後、3年間通院治療を続けましたが完治しなかったため、後遺障害等級認定を申請しました。その結果、症状固定だといわれましたが、後遺障害は認定されませんでした。
ムチ打ち症の場合、一般的には入院の必要はなく、3~6ヶ月程度の通院で治癒し、重症で長引く場合でも、ほとんどが1年以内に完治すると言われています。
そのため、Aさんの入院3ヶ月+通院3年というのは、一般的な基準からすると非常に長期化していると判断されます。
Aさんのケース | 一般人 | |
---|---|---|
怪我 | むち打ち | むち打ち |
入院 | 3ヶ月 | なし |
通院 | 3年間 | 3~6か月 長くて1年以内 |
➡Aさんのケースは一般人に比べて長すぎる |
被害者が絶対に知っておきたい重要な保険4つ
それでは、被害者がどんな保険に加入していれば、自分の保険を使うことができるのか見てみましょう。なお、ここで紹介する保険のほとんどは任意保険の特約にあります。
保険名 | 種類や特徴 |
---|---|
対人賠償保険 | 相手方の人的損害を賠償 |
対物賠償保険 | 相手方の物的損害を賠償 |
車両保険 | 自分の車の物的損害を補償 →加害者が対物賠償保険に未加入の場合に重要! |
人身傷害補償保険 | (被害者の過失の有無に関わらず)被害者の人的損害を補償 |
搭乗者傷害保険 | 保険をかけた車両の搭乗者の人的損害を賠償 |
無保険車傷害保険 | 加害者からの賠償金では損害を賄えない場合の補償 |
自損事故保険 | 単独事故などで被害者が死亡または後遺障害を負った時の補償 |
極端な治療の長期化は心因性が原因と判断される
医師の意見を参考に判断することになりますが、治療が長期化した原因が被害者の心因や性格に起因しているとすれば、相手からの損害賠償が減額される可能性があります。
減額の程度としては、被害者の性格、心の状態(精神疾患がある場合はその程度)、社会環境、事故の衝撃、入院・通院の経緯などの個別の具体的な要素によって判断されます。
平均治療期間はあくまで目安
ムチ打ち症の場合、通院が長期化すると、保険会社の担当者から心因性を理由に、治療の打ち切りが求められたり、長期化を理由に減額を主張されることがあります。
しかし、むち打ちが3~6ヶ月の間で治癒するというのは、あくまで一般論であり、あまりにも極端な長期化でなければ心因性を理由に損害賠償を減額されるとは限りません。
▼保険会社から治療の打ち切りが言われるケースについてはこちら
被害者がうつ状態になり自殺してしまった場合
被害者の中には、交通事故が原因で心に大きな傷を負い、最終的に自ら命を絶ってしまうという方もいます。
このような場合、遺族は事故による傷害の損害を超えて、死亡についての損害(死亡慰謝料)も加害者側に請求することができるのでしょうか?
Q:交通事故が原因で鬱になった被害者が死んだ場合、死亡慰謝料を請求できますか? |
A:事故と自殺の因果関係を証明しなくてはいけないため、裁判所によって判断が分かれます。 |
あくまで裁判所の判断に委ねられる
人が自殺をする場合、原因は人によって様々であり、事故と自殺の因果関係を証明することは容易ではありません。
過去の裁判例を見ると、被害者が交通事故による傷害が原因でうつ状態になり、その結果に自ら命を絶ってしまった場合、被害者の心因性を原因に損害賠償の大幅な減額(8割減額を認めた例もあり)を認めたケースもあります。
しかし、一方で被害者の死亡による損害賠償を相手に認めたケースもあるため、一概に「交通事故後に被害者が自殺=交通事故が原因であるため損害賠償を増額できる」とは言えません。
持病が原因で治療が長期化した場合
事故に遭う前から被害者に疾患や持病があった場合、その疾患が影響して治療が長引く可能性(例えば、持病の椎間板ヘルニアが影響して通院期間が延びたなど)があります。
その場合に損害賠償額を減額するべきかどうか、以前は激しい議論になるテーマでした。しかし現在では、損害の公平な分担という観点から原則として事故以前の疾患や持病が原因で長期化した場合は相当額を損害賠償から減額することになっています。
事故に遭う前から疾患や持病がある場合は要注意
注意すべき点は、事故によって現れた症状が、事故以前からある疾患や持病が原因で発生する症状である可能性があることです。
交通事故以前に疾患があれば、事故によって疾患が発覚したとしても(疾患があっても症状が出ずに気づかない場合もある)、損害賠償の減額の対象となる可能性があります。
例えば、椎間板ヘルニアの場合は当事者自身も自覚症状がないことが多く、交通事故に遭ったことでヘルニアが発症して表に出てくるケースがあります。このような場合にも、減額が認められる可能性があります。
減額が認められる可能性のある疾患
過去の裁判例で減額が認められた疾患の一部として以下のものがあります。
疾患 | 症状 |
---|---|
椎間板ヘルニア | 片側の下股痛、臀部から足にかけて猛烈な激痛など |
後縦靭帯骨化症 | 脊椎の椎体後縁に沿って縦走する靭帯が肥厚して骨化する病気 |
一酸化炭素中毒症状 | 頭痛、吐き気、眠気、錯乱など |
減額される金額はケースごとに異なる
事故以前からの疾患や持病により損害賠償の減額が認められる場合、疾患の軽重、被害者の性別、体質、事故の衝撃など様々な要素を考慮しなければなりません。
そのため、具体的な基準は設けられておらず、事故の案件によって減額される金額が異なります。
老化による疾患は判断が分かれる
事故以前から上記の疾患があれば、必ず損害賠償が減額されるのかと言うとそうではありません。疾患の原因が老化である場合は判断が難しくなります。既存の椎間板ヘルニアが、年齢による相応の症状である場合は、減額すべきではないという判断を下した裁判例もあります。
また、追突事故の損害賠償の算定において、変形性頸椎症(頸椎が徐々に傷んでくる症状)は被害者の年齢によっては問題点となりやすいです。
なぜなら、老化によって頸椎が変化するのは自然なことであり、それが治療期間の長期化へつながる可能性があるためです。
このような場合、被害者側の要因として減額を認めるべきか、年相応の老化現象として減額を認めないのかは、今でも意見が分かれます。
治療が長期した原因の判断の見極めはとても難しい
交通事故に遭った被害者の治療が長期化する原因には、上記のように被害者自身にあることがあります。その場合は事故との関係性がない事もあるため、交通事故とは無関係として損害賠償が減額されることがあるのです。
元々持っていた病気や老化が、事故がきっかけでケガとしてでてきた場合は、その原因が事故によるものなのかの見極めが大変難しいです。
その為、元々疾患がある人や上記のような事柄が自分に該当する人は注意したほうがいいかもしれません。
ケガの治療費を保険会社へ請求するにあたり、交渉を有利に進めたい場合は弁護士への依頼がおすすめです!
交通事故でケガを負った場合、保険会社との示談交渉を弁護士に依頼することによって、治療費や慰謝料などの示談金を増額できるケースがあります。
初回相談料や着手金が0円の弁護士事務所もありますので、示談交渉に不安を感じたらまずは弁護士へ相談してみましょう。
【交通事故の示談を弁護士に依頼するメリット】
・専門知識が必要な示談交渉を弁護士に任せることにより、有利かつスムーズに示談交渉を進められる。
・相手方に請求する示談金を増額させることができる。
・通院中や入院中など、交通事故のダメージが残っているときでも、示談交渉を任せられるため、治療に専念できる。
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