「障害等級」は労災保険・自賠責保険・年金、それぞれ審査が別、互換性なし
障害基礎年金を判断するうえで一番重要なのは初診日の時点で年金を納付したのか
公的年金と併給して労災保険の年金も受け取れるが金額に調整がかかる
交通事故の被害者となった場合、加入している国民年金や厚生年金の“障害年金制度”により、労災保険とは別に障害年金や遺族年金を併給してもらうことができます。
ここでは、公的年金の障害年金制度により支払われる障害年金の種類や貰い方について説明していきます。
目次
国民年金&厚生年金(=公的年金)の障害年金制度
交通事故によって被害者が死亡、もしくは重い障害(介護が必要だったり、寝たきりなど)が残った場合、被害者が国民年金や厚生年金に加入していると、国民年金や厚生年金からも障害年金や遺族年金を併給してもらうことができます。
その年金は労災保険の障害年金または障害手当金、遺族年金とは別のところから出ます。
なお、厚生年金は国民年金に上乗せする年金(自動車保険でいう自賠責保険と任意保険のようなもの)の為、国民年金だけではカバーしきれないものを助けている仕組みです。そのため、厚生年金からもらえる場合は国民年金からももらえる状態であるとも言えます。
労災保険と公的年金、自賠責保険の「障害等級」はそれぞれ無関係
労災保険と同じように、国民年金や厚生年金も障害等級に応じて支給される年金が異なります。
しかし、労災保険と国民年金/厚生年金では等級の判断基準が異なり、更には国民年金と厚生年金の間でも基準は異なりますので、それぞれ確認が必要になります。特に労災保険には傷病等級という独自の等級がありますので要注意が必要です。
ここで覚えておきたいのは「労災保険・公的年金・自賠責保険の障害等級は全て別物」ということです。申請先が違う為、流用はできないのです。また自賠責保険よりも公的年金の障害等級の認定のほうが難しいとされています。
Q:労災保険で障害等級を認定してもらったけど年金申請や自賠責保険でも使えますか? |
A:使えません。全くの別物の為、年金の申請の場合は一から書類を集めて申請する形になります。 |
国民年金から支給される障害年金
年金の名称 | 対象者 |
---|---|
障害基礎年金 | 年金が定めた障害等級1級または2級の認定を受けた人 |
遺族基礎年金 | 被害者が死亡した場合 |
厚生年金から支給される障害年金
年金の名前 | 対象者 |
---|---|
障害厚生年金 | 年金が定めた障害等級1級~3級の認定を受けた人 |
障害基礎年金 | ※国民年金の時と一緒 |
障害手当金(一時金) | 法律に定められた障害等級3級以下の障害の認定を受けた人 |
遺族厚生年金 | 被害者が死亡した場合 |
遺族基礎年金 | ※国民年金と一緒 |
年金の中でも特に重要なのが国民年金と厚生年金両方から支給される「障害基礎年金」、そして厚生年金に加入している方にのみ支給される「障害厚生年金」、障害等級3級以下でもらえる「障害手当金」です。
なお、これら障害年金は加害者からの損害賠償金をもらう事になると、支給が停止します。年金の支給と加害者からの損害賠償金の重複により貰う金額が多額になる事を避ける為です。
障害厚生年金や障害基礎年金をもらえる条件
国民年金や厚生年金から支給される障害年金ですが、交通事故に遭ったからといって何もせずにもらえるのではありません。これらの年金をもらう為には条件があります。
まず前提条件としては「年金に加入している事(=支払っている事)」です。年金未納の方は対象外になりますので要注意です。
かつ、これらの年金は年金の対象者が申請をしなければ貰うことができません。必要な書類を集めて提出することになります。
障害基礎年金
まず障害基礎年金は国民保険に加入していることが条件です。そのため国民保険に加入していることが条件の厚生年金でも貰えることができます。
まず障害の原因である怪我で通院した最初の日(=初診日)が、国民年金に加入している期間であることが条件です。もし20歳前が初診日の場合は20歳を迎えた日(=成人した日)が初診日とされます。
そして次に、初診日から1年6か月が経過した障害認定日の時点で障害等級が1級もしくは2級であることがあげられます。
しかし、これらを満たしていても、初診日までにきちんと国民年金の保険料を納付していなければもらうことができません。かつ、初診日の前々月の約1年間に、保険料未納があると年金はもらえません。
これで重要なのが「障害認定日ではなく初診日の時点で保険料を納付している事で判断される」ということです。
支給開始日はいつ?
障害基礎年金の支給日は、障害認定日の翌月からです(正確に言えば、審査後の決定通知書が届いてから1~2か月経過後に振り込まれる)。
また障害基礎年金はさかのぼって請求できることもできますが、それは5年分までとなっています。障害基礎年金の書類提出先は市役所の窓口です。
障害厚生年金
障害厚生年金は厚生年金に加入していることが条件ですが、初診日の時点で厚生年金に加入していなければもらえません。つまり、初診日の後に厚生年金に加入してしまった場合は条件を満たしていないことになります。
そして基礎年金と同じように初診日から1年6か月経過した障害認定日の時、障害等級が1級、2級、3級の状態であることがあげられます。
またこちらも初診日までにきちんと保険料を納付しており、かつ前々月までの1年間保険料の未納がないことが条件です。
支給開始日はいつ?
障害厚生年金は、障害基礎年金同様、障害認定日の翌月から支給されます。またこちらも5年分までですが、さかのぼって年金を請求することができます。
障害厚生年金の書類提出先は年金事務所なので注意が必要です。
障害手当金
障害手当金は障害厚生年金同様、初診日のときに厚生年金に加入している事が条件です。そして初診日から数えて5年の間に医師によって厚生年金保険法に定められている障害等級3級に満たない障害のなかで、どれかの症状固定だと認定されていることがあげられます。
また、障害基礎年金や障害厚生年金同様、保険料が納付されていることと1年間の未納がない事もあげられます。
労災保険の年金と公的年金の繋がり
被害者が厚生年金に加入していて通勤中に交通事故に遭い、後遺障害等級1級または2級の後遺障害を負った場合は、労災保険からの障害補償年金に加え、厚生年金からの障害厚生年金と、国民年金からの障害基礎年金が支給されることになります。
つまり、基準を満たしていれば国民年金・厚生年金・労災保険の年金すべて受け取ることができるのです。
労災保険の年金の種類
年金の種類 | 参考にされるもの |
---|---|
障害補償年金 | 給料 |
障害特別年金 | ボーナス |
障害特別支給金 | 障害等級 |
労災保険の障害補償年金は、後遺障害が残り、事故前の仕事ができなくなった事で給料が事故前に比べて減少した給料分を補填する年金です。
また労災保険には給料以外にも事故により減少したボーナス分を補填する「障害特別年金」という年金も存在します。この年金がもらえる条件は「障害補償年金の条件をクリアした方」の為、被害者の勤務状況によっては「補償年金(給料分)」「特別年金(ボーナス分)」が貰えることができるのです。そしてこれらを年金形式でもらえるのは障害7級以上です。
障害等級8級以下の場合は年金形式ではもらえませんが、一時金という形で上記の労災保険の年金を受け取る事ができます。
他にも障害等級ごとに金額が最初から決まっている「障害特別支給金」という一時金の形式の年金もあります。それぞれ自分で書類を作成して請求しなければいけない為注意しましょう。
支払い形式 | |
---|---|
障害等級7級以上 | 年金形式(偶数月) |
障害等級8級以下 | 一時金 |
併給した場合は労災保険が調整される
しかし、このような併給を受け取る場合、公的年金(厚生年金/国民年金)は全額支給されますが、労災保険から支給される金額は調整されて減額します。
これは、支給される年金額が被災前の賃金よりも高額にならないようにするためです。また、厚生年金は被保険者と事業主が折半、労災保険は事業主が全額していることから、事業主の保険料の二重負担を防ぐ目的があります。
労災保険と国民年金/厚生年金の調整率
労災保険の年金 | ||||
---|---|---|---|---|
障害補償年金 | 遺族補償年金 | 傷病補償年金 | ||
厚生年金 および 国民年金 | 障害厚生年金 障害基礎年金 | 0.73 | ー | 0.73 |
遺族厚生年金 遺族基礎年金 | ー | 0.80 | ー | |
厚生年金 | 障害厚生年金 | 0.83 | ー | 0.86 |
遺族厚生年金 | ー | 0.84 | ー | |
国民年金 | 障害基礎年金 | 0.88 | ー | 0.88 |
遺族基礎年金 | ー | 0.88 | ー |
例えば、国民年金だけ加入していることで受け取れる障害基礎年金と労災保険の年金の障害補償年金を併給する場合、障害基礎年金は全額支給されます。しかし障害基礎年金は0.88の調整率がかけられており、減額された金額が支給されることになります。
Q:国民年金の障害基礎年金を500万円、労災保険の障害補償年金を600万円併給するとき |
A:受け取るお金:¥10,780,000 |
国民年金▶▶▶5,000,000(調整率はかからない・減額無し)
労災保険▶▶▶6,000,000×0.88=5,280,0000
しかし、調整が行われない併給もあります。例えば、障害厚生年金(公的年金)と遺族補償年金(労災保険年金)の併給では調整が行われず、両方とも全額を支給されます。
ちなみに、調整を行う場合でも、調整された労災保険の年金と厚生年金の合計が、調整前の労災保険の年金より低額になることはありません。
障害年金の支給額
では具体的にこれら公的年金の障害年金の支給額がどのように計算されるのか見てみましょう。
等級 | 障害厚生年金 | 障害基礎年金(国民年金/厚生年金) |
---|---|---|
1級 | 報酬比例の年金額×1.25 +配偶者(22万4,500円) | 780,100円×1.25+子どもの加算 |
2級 | 報酬比例の年金額 +配偶者(22万4,500円) | 780,100円×1.25+子どもの加算 |
3級 | 報酬比例の年金額 ※最低58万5,100円 | ー |
上記で登場する報酬比例の年金額は、平均標準報酬額(ボーナスも含めた毎月の平均収入)と被保険者期間(厚生年金を納めた期間)で決まります。
ちなみに、これでは被保険者期間が短い若年者の支給額が少なくなるように思えます。しかし、このように被保険者期間が300か月未満の場合でも、300か月(25年間)の加入期間が保障されます。
Q:交通事故に遭い、障害等級2級の被害者(既婚・18歳以下の子供が2人いる)は、厚生年金と国民年金を払ってきた。報酬比例年金は1,200万円。もらえる年金の金額は? |
A:単純計算すれば、26,648,625円 |
計算式▼
国民年金:780,100×1.25+(224,500×2)=1,424,125
厚生年金:12,000,000+224,500=12,224,500
障害年金は障害の等級が1級か2級であれば、障害基礎年金と障害厚生年金が両方貰えることになります。その為先ほどの労災保険の調整率も低くなっているのです。また障害基礎年金は3級がないため、3級の場合は障害厚生年金のみがもらえるのです。
障害手当金
障害等級3級以下でもらえる厚生年金のひとつ、障害手当金については、下記の計算のうち、より高いほうが請求者に支払われます。
報酬比例の年金額×2
or
1,169,000(最低補償額)
被害者になった時の年金制度の重要性
近年未払いが問題となっている国民年金ですが、単に老後の生活のためだけではなく、若くして交通事故の被害者になり重度の障害が残った時にも使える重要な制度です。
労災保険同様、自賠責保険とは違うところに属するため、保険会社が決める過失割合や示談交渉に振り回されることがありません。
物損事故や加害事故で重度の後遺障害が残った場合、自賠責保険の対象外となったり、重過失減額によって無責事故となったりと、十分な賠償を受けることはまず不可能です。そんな万が一の事態も想定した上で、年金には必ず加入しておくようにしましょう。
交通事故の被害者が使用できる年金のまとめ
交通事故で重い障害を受けたことで支給される年金の制度についてみてきました。年金と聞くと、高齢者になってからもらえるイメージが先行しているのですが、そもそも年金は働けない人が最低限の生活を暮らすための社会保障制度です。
何より労災保険と併用でき、自賠責保険などの車両保険とはまた別の保険制度の為、受給の条件を満たしているならば、申請をしてみてはいかがでしょうか。
交通事故の障害年金申請に必要な書類 | |
---|---|
受診状況等説明書 | 初診日を証明する書類 |
診断書 | 障害認定日より3ヶ月以内のもの |
病歴・終了状況等申立書 | 障害の自覚症状を記載する書類 |
年金手帳 | |
生年月日を証明する公的書類 (住民票・戸籍謄本など) | 6か月日以内に交付したもの |
第三者行為事故状況届 | 損害賠償と併給していないという念書とセット |
交通事故証明書 | |
年金請求書 | 年金ごとに内容が違うので注意 |
こういった後遺障害にかかわる年金が条件によってはもらえる事を知らない人が多く、気が付いたらもらえなくなっていたという可能性もあります。もし気になるのであれば早めに弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。
交通事故の被害者になったら弁護士特約の利用をおすすめします!
交通事故で怪我を負った場合、弁護士特約が利用できると、費用の負担なしで弁護士に対応を依頼することが可能です。依頼を行う弁護士は自分自信で選ぶことも可能です。
保険会社との示談交渉を弁護士に依頼することによって、治療費や慰謝料などの示談金を増額できるケースがあります。
初回相談料や着手金が0円の弁護士事務所もありますので、被害者になったらまずは自分が契約している保険会社に弁護士特約が使えるかどうかを確認し、利用可能な場合は弁護士へ相談してみましょう。
【弁護士特約を使って弁護士に依頼するメリット】
・費用の負担をせずに弁護士に依頼ができる
・専門知識が必要な示談交渉を弁護士に任せることにより、
有利かつスムーズに示談交渉を進められる。
・怪我をしている中で交渉にかかる心理的な負担が省ける
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