物損は人損より先に処理される
緑ナンバーの車両の修理の場合は休車損害が適用される
物損を請求する際はまず見積もりを提示しよう
交通事故によっては、乗っていた自動車や荷物が壊れて使い物にならなくなり、修理や買い替えが必要となる場合があります。そして修繕や買い替えにかかった費用を損害として加害者側に請求することができます。
また物損に対する賠償は、人損に対する賠償より先に処理されます。人ではなくモノに対する被害の請求方法を見ていくことにします。
目次
修理・買い替えが必要となる基準
交通事故に遭った際に巻き込まれた車両は、買い替えるべきか、修理するべきなのかわからないと思います。実は交通事故によって壊された車の買い替えor修理の基準が定められています。
下記のケースいずれかに該当する場合は買い替え差額が、いずれにも該当しない時は修理費を、それぞれ損害賠償金として加害者側に請求することができます。
★車両買い替え差額を請求できる条件★
1 物理的に修理が不可能(=全損)
2 修理の見積り額が車両の時価を超えている
3 車両の本質的な構成部分に重大な損害がある
条件のどれかにヒットする ➡ 車両買い替え差額を損害賠償請求できる
条件のどれにヒットしない ➡ 車両の修理費を損害賠償請求できる
自動車を修理した時に重要となる「評価損」
自動車を修理して事故前の元の状態に戻したとしても、事故車は査定が低くなる、つまりその車の下取り価格は大幅に下がります。
これを「評価損(格落ち損)」と呼び、事故による損害として修理費とは別に加害者側に請求することができます。(事故に遭わなければ起きなかった出来事の為)
評価損の請求は難しい交渉となる
しかし、評価損については算定が非常に難しく、過去の判例上も統一的な見解がまとまっていません。
具体的な状況に応じて、修理費の1~3割程度を評価損として認める傾向が現在は多く見受けられます。
また、示談交渉において、保険会社はこの評価損による支払いを簡単に認めようとはしません。
そのため、評価損による損害賠償を請求する場合は、「事故前の価格と事故車の価格の差額」を書類にまとめたり、評価損を認めた判例の資料を用意する必要があります。
自動車を買い替えた場合
自動車の買い替えが必要な場合は、事故発生時の車両時価相当額とスクラップ代の差額が損害となります。
つまり、例えば事故車両の時価が200万円で、車がスクラップとして10万円の価値がある場合、190万円を損害として加害者側に請求することができます。
しかし、一般的に、スクラップ代はゼロと評価されますので、事故発生時の車両時価が損害として認められることになります。
車両時価を算出するための参考資料
車両の時価は、車両の種類や走行距離などによって変わってきます。どのように調べるのかというと「自動車価格月報(通称レッドブック)」や「中古車価格ガイドブック(通称イエローブック)」、「建設車両・特殊車両標準価格表」などの資料を使って時価を算出するのです。
その他に物的損害として認められる費用
上記のような修理費や買い替え差額の他にも、交通事故による損害として加害者側に請求することができる物的損害があります。どのような損害があるか見てみましょう。
代車使用料
修理期間や新車を購入するまでの間に代車を使用した場合、相当期間の費用が損害として認められ、加害者側に請求することができます。
その相当期間は、一般的に、修理の場合は2週間程度、買い替えの場合は1か月程度になります。
代車使用料は「代車の必要性」がないといけない
代車使用料は、必要性が認められなければ支払ってもらうことができません。
例えば、被害車両が自家用車の場合は、代車の必要性が認められにくいですが、通勤のために日常的に使用しているような場合は、必要性が認められ、損害として請求できる可能性が高くなります。
また、被害車両を仕事で使用していた場合、必要性は認められやすいのですが、その車両が緑ナンバーだった場合は、認可との関係で代車を使用することができないため、代車使用料ではなく休車損害としての扱いになります。
休車損害
タクシーやハイヤー、バスなどの緑ナンバーの営業用車両が交通事故の被害に遭った場合、車両の修理などの修理期間、その車両を使用できていれば得られたであろう営業利益を、損害として加害者側に請求することができます。
休業損害の車バージョンといっても問題ではありません。
休車損害の計算方法
被害車両の1日あたりの営業収入を計算します。
そして、そこから被害車両を使わないことで支払いがなくなったガソリン代などの経費を差し引き、その残高に休車期間をかければ休車損害を算出することができます。
休車損害 =(営業収入ー[ガソリン+経費])×休車日数
質問:Aさんはタクシーの運転手で1日15万円の営業収入があります。交通事故の被害に遭い、修理の為約14日間車を使用することができなくなりました。 ガソリンを含めた1日の経費は3万円です。休車損害はどれくらいになるでしょう? |
計算式 休車損害=(150,000-30,000)×14=1,680,000 答え Aさんの休車損害は168万円 |
積荷損害
被害車両本体以外に、事故によって積んでいた商品や製品が売り物にならなくなるなどの被害が生じることもあります。
これらの被害を積荷損害と言い、損害賠償の一つとして加害者側に請求することができます。
積荷損害の計算方法としては、その物品の購入時の価格、使用期間、使用状態などを考慮したうえで、事故直前の時価を計算することになります。
その為一概に基準というものは決められていないので、事故の状況によって変化します。
その他費用
物的損害の代表的なものは上記にあげましたが、これらに含まれない損害ももちろんありえます。
レッカー代 | 被害車両が大破し、レッカー車が必要となった場合の費用 |
雑費 | 被害車両の保管料や査定費用、事故証明交付手数料など |
着衣 | 事故発生時に着ていた服やメガネなど |
登録費用 | 車両の買い替えにより必要となる廃車費 新しい車両の新規登録費用や納車費用、自動車取得税など |
家屋修繕費 | 事故により店舗が破壊された場合の修繕費 修繕の際に店舗の営業に支障がある場合は営業損害(休業損害) |
積荷損害 | 被害車両に積んでいた商品や製品が破壊された場合はその損害額 |
物損に対する慰謝料
物損事故において慰謝料が認められることはほとんどありません。
事故に遭って壊れたのが貴重なクラシックカーかつ、再び手に入れることが出来ない場合であっても、慰謝料が認められることは極めて稀なケースです。
そもそも慰謝料は損害賠償のうち精神的損害に含まれますが、そこから3種類に大別される慰謝料はいずれも交通事故に遭ったことで引き起こされた肉体への苦しみが原因です。交通事故の慰謝料は、事故によるケガの苦痛との因果関係が強いといえます。
また物損事故は怪我を負っていない事故の為、慰謝料を請求するのはとても難しいといえます。
物損事故における慰謝料が認められる稀なケースとは、加害者が被害者に精神的な打撃を与えるために、故意的に物を破壊した場合や、その物が被害者にとって特別な価値があると証明できる場合など、特別な事情が認められたケースに限ります。
慰謝料は精神的な損害に属するものだからのぅ。車両が壊された事で被害者が心に傷を負った事を証明する必要があるんじゃ。
物損損害を請求する際の注意点
人身事故と違い、物損事故には自賠責保険の適用がありません。加害者が対物賠償保険に加入していればその保険が適用されます。
もし加入していなくても、状況次第によっては加害者本人に対して損害賠償を直接請求することはできます。
修理先や修理見積額をあらかじめ掲示しよう
被害者が車両保険に加入していれば、先に車両保険から支払いを受け、後で保険会社が加害者側に請求するという方法もあります。
しかし、加害者側の予想より修理費が高くなってしまった為、賠償金を支払うことはできないと手のひらかえしをされる事など、先に修理を終えてしまってからいざ示談をし始めた時、交渉の場でもめるケースが非常に多く見受けられます。
場合によっては示談は平行線をたどり、訴訟になる場合や、加害者がそのまま音信不通になる事もあり得てしまいます。
そうならないためにも、どこに修理を依頼するか、修理の内容、見積額などをあらかじめ加害者側と検討し、話し合っておくことが重要となります。
物的損害に対する賠償金は課税になる可能性がある
所得税法において、基本的に被害者自身が得た損害賠償金は、非課税と定められており、税金はかかりません。
そして、車両の破損などの物的損害に関しても、基本的には非課税となりますが、課税となる例外もあります。
どのような場合に課税になるのか
例えば、営業用の車両が廃車となった時です。車両の損害に対する損害賠償金は、基本的には非課税です(休車損害)。
しかし、事業所得を計算するために、車両の資産損失の金額を計算する場合は、損失額から損害賠償などによって補償された金額を差し引く必要があります。
また、商品配送中の事故により、商品が使い物にならなくなり賠償金を受け取った場合(積荷損害)、収入金額(売上)と同じと考えられるため、非課税ではなく事業所得の収入という扱いになります。
物的損害の賠償請求についてのまとめ
車を主とした物的損害の賠償請求についてみてきました。賠償が認められるのは限られてきます。
しかし、修理、買い替えなど、事故で車が壊れてしまった時どうすればよいのか悩んでいた人も理解できたのではないでしょうか。
しかし賠償請求において一番重要なのは請求するタイミング。争点にもなりやすいため、あらかじめ車の買い替えおよび修理の見積もりに出す、と話しておくともめることにならないと思います。
交通事故での慰謝料を請求するにあたり、交渉を有利に進めたい場合は弁護士への依頼がおすすめです!
交通事故でケガを負った場合、慰謝料請求を弁護士に依頼することによって、治療費や慰謝料などの慰謝料を増額できるケースがあります。初回相談料や着手金が0円の弁護士事務所もありますので、慰謝料を請求するにあたり不安を感じたらまずは弁護士へ相談してみましょう。
【交通事故の慰謝料請求を弁護士に依頼するメリット】
・専門知識が必要な示談交渉を弁護士に任せることにより、有利かつスムーズに示談交渉を進められる。
・相手方に請求する慰謝料を増額させることができる。
・通院中や入院中など、交通事故のダメージが残っているときでも交渉を任せられるため、治療に専念できる。
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