【交通事故による後遺障害等級】脊髄障害

公開日:2017/02/27
最終更新日:2017/12/07

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後遺障害認定

脊髄のイメージ画像

 

 脊髄損傷でおこる麻痺は完全麻痺と不全麻痺にわけられる

 脊髄障害は自賠責よりも労災保険の基準に準じて等級が決まる

 脊髄の障害認定で注目されるのは麻痺の範囲と程度

脊髄障害とは、脊椎を保護する役割のある脊椎が鈍的外力によって損傷したために、障害部位に応じた特有の症状(脱力・麻痺・感覚障害・排尿排泄障害など)が出現する後遺障害です。

ここでは、脊髄障害について詳しく説明します。

脊髄障害の症状

まず、脊髄を損傷したことで発生する症状を見てみましょう。

局所症状

損傷した脊髄の局所症状として、局所の疼痛・叩打痛・腫脹・変形・可動域制限などがみられます。その他にも顔面や頭部、腰背部などの体幹に挫傷・擦過傷・打撲などが認められます。

麻痺

麻痺は、完全麻痺と不全麻痺に分けることができます。

完全麻痺では、損傷した部位より下の部位の運動や知覚が失われます。

不全麻痺は、損傷の程度や高位によって麻痺の種類がさまざまです。基本的には、頸髄損傷は四肢麻痺(両側の上肢・下肢すべてに生じた麻痺)、胸腰髄損傷は対麻痺(両下肢の麻痺)が生じます。

全身症状

循環障害

頸髄損傷と胸髄損傷は、交感神経が遮断されて副交感神経が優位となるため、心筋収縮力が低下し、心拍出量の低下や徐脈、血圧低下が起こり、血管運動神経の遮断による血管拡張はこれを助長します。

呼吸障害

交通事故による呼吸障害を起こしている女性のイメージイラスト頸髄損傷は、特に呼吸障害に注意をしなければなりません。損傷した部位が高位になるほど、呼吸障害の程度は重篤になります。

横隔膜は第3~5頸髄節神経支配であるため、第3頸髄節以上の損傷は直ちに人工呼吸を行わなければ救命することができません。それ以下の頸髄損傷では、呼吸筋である助間筋や腹筋群が麻痺するため、胸郭運動障害が起こり換気不全となります。

膀胱直腸障害

中枢性あるいは末梢性麻痺により、排尿機能障害をきたした状態です。尿閉・残尿・失禁・排尿遅延など、麻痺の程度に応じてさまざまな症状がみられます。

副交感系の骨盤神経は膀胱利尿筋を支配し、尿意もこの神経を介して伝わります。一方、脳脊髄神経の陰部神経は外尿道括約筋を随意的にコントロールしています。両神経の中枢は第2・3・4仙髄にあり、大脳からの支配を受けています。

脊髄障害などで脊髄利尿中枢より上位で損傷をした場合、反射が亢進し、少量の尿貯留で排尿反射が起こり、抑制は不可能となり、失禁となりますが残尿は比較的少ないです。

一方、仙髄反射中枢や馬尾あるいは骨盤内での抹消神経の損傷すなわち排尿反射弓の損傷では排尿反射自体が消失し、膀胱内圧は低下し容量が増大し、残尿が多く、横溢性失禁となります。

脊髄損傷では膀胱直腸障害は必発であり、軽症例を除けば急性期はほぼ尿閉の状態であると考えられます。

脊髄障害の等級認定基準

脊髄損傷によって後遺障害が残った場合、自賠責保険において障害の程度に応じて等級の認定が行われることになりますが、高次脳機能障害と同じく労災保険の基準に準じたものになります。

その労災保険における等級認定の基準は下記の2点が重要となります。

  1. 認定基準の明確性の向上を図るために、脊髄損傷に通常伴って生じる神経因性膀胱障害などの障害も含めて評価すること
  2. 障害認定に関しては、麻痺に着目し、麻痺の範囲と程度に応じて等級認定を行うこと

麻痺の範囲と程度について

レントゲン写真を見て症状を確認する医師のイメージ画像麻痺の範囲とその程度に関しては、身体的所見とMRIやCTなどによって裏付けられる必要があります。そのため、主治医の意見書に記載されている麻痺の症状と関節可動域の制限などの結果と、麻痺の範囲・程度との間に整合性があるかどうかを確認し、必要に応じて調査を行ったうえで等級を認定することになります。

具体的には、麻痺の症状の欄には弛緩性と、関節可動域の制限の欄には麻痺している部分のいずれの関節も自動運動によっては全可動域にわたって可動させることができると記載されているにも関わらず、麻痺が高度とされている場合には、主治医に再度意見を求めるなどの調査が必要であるとされています。

自賠責保険の後遺障害等級も、このような労災認定基準に準じ、身体的所見およびMRI・CTなどによって裏付けることのできる麻痺の範囲とその程度によって認定されます

高度の麻痺

程度症状
高度障害のある上位・下肢の運動性・支持性はほとんど失われ、基本動作(※1)ができない

(※1)上肢については物を持ち上げて移動させること、下肢については歩行や立った状態を維持すること。

【高度な麻痺の具体例】

  1. 完全硬直、またはこれに近い状態
  2. 上肢については、三大関節と5つの手指の関節を自動運動によっては可動させることができない、またはこれに近い状態
  3. 下肢については、三大関節を自動運動によっては可動させることができない、またはこれに近い状態
  4. 上肢については、随意運動の顕著な障害によって、障害を残した一上肢では物を持ち上げて移動させることができない状態
  5. 下肢については、随意運動の顕著な障害によって、一下肢の支持性と随意的な運動性をほとんど失った状態

中度の麻痺

程度症状
中度障害のある上肢・下肢の運動性・支持性は相当失われ、基本動作にかなりの制限がある

【中度の麻痺の具体例】

  1. 上肢については、障害を残した一上肢では仕事に必要な軽量の物(およそ500g)を持ち上げることができない、または文字を書くことができない状態
  2. 下肢については、障害を残した一下肢のための杖もしくは硬性装具がなければ階段を上がることができない、または障害を残した両下肢のための杖もしくは硬性装具がなければ歩行が困難な状態

軽度の麻痺

程度症状
軽度障害のある上肢・下肢の運動性・支持性は多少失われ、
基本動作を行う際の巧緻性・速度が相当程度損なわれている

【軽度の麻痺の具体例】

  1. 上肢については、障害を残した一上肢では文字を書くことに困難を伴う状態
  2. 下肢については、日常生活は概ね一人で歩くことができるが、障害を残した一下肢が原因で不安定で転倒しやすく速度が遅い、または障害を残した両下肢のための杖もしくは硬性装具がなければ階段を上がることができない状態

脊髄障害の後遺障害等級

脊髄損傷が原因となる後遺障害の等級と該当する症状は下記の通りになります。

等級後遺障害
第1級1号脊髄症状のため、生命維持に必要な身の回り動作に常に介護が必要な状態

また、以下に該当する状態をいいます。

  1. 高度の四肢麻痺が認められる状態
  2. 高度の対麻痺が認められる状態
  3. 中度の四肢麻痺があり、食事・入浴・用便・更衣などに常に介護が必要な状態
  4. 中度の対麻痺があり、食事・入浴・用便。更衣などに常に介護が必要な状態
等級後遺障害
第2級1号脊髄症状のため、生命維持に必要な身の回り動作に随時介護が必要な状態

また、以下に該当する状態をいいます。

  1. 中度の四肢麻痺が認められる状態
  2. 軽度の四肢麻痺であり、食事・入浴・用便・更衣などに随時介護が必要な状態
  3. 中度の対麻痺であり、食事・入浴・用便・更衣などに随時介護が必要な状態
等級後遺障害
第3級3号生命維持に必要な身の回り動作は可能だが、
脊髄症状のために労務に服することができない状態

また、以下に該当する状態をいいます。

  1. 軽度の四肢麻痺が認められる状態(第2級1号の2に該当するものは除く)
  2. 中度の対麻痺が認められる状態(第1級1号の4または第2級1号の3に該当するものは除く)
等級後遺障害
第5級2号脊髄症状のため、きわめて軽易な労務以外は服することができない状態

また、以下に該当する状態をいいます。

  1. 軽度の対麻痺が認められる状態
  2. 一下肢の高度の単麻痺が認められる状態
等級後遺障害
第7級4号脊髄症状のため、軽易な労務以外は服することができない状態

また、一下肢の中度の単麻痺が認められる状態が該当します。

等級後遺障害
第9級10号通常の労務に服することはできるが、
脊髄症状のために就労可能な職種の範囲が相当程度に制限される状態

また、一下肢の軽度の単麻痺が認められる状態が該当します。

等級後遺障害
第12級13号運動性・支持性・巧緻性に支障がほとんどみられない軽微な麻痺を残す状態。
また、運動障害はみられないが広範囲に感覚障害が認められる状態。

その他に、脊髄損傷によって後遺障害が生じた場合で、その障害が上記の等級に該当し、かつ生じた障害が単一である場合は、その等級によって認定されることになります。

裁判で争点となりやすい要素

他の後遺障害と同様に、脊髄障害においても被害者と加害者の間で争いとなりやすい問題があります。ここでは、なかでも争点となりやすい問題について紹介します。

脊髄損傷の有無

被害者側と加害者側で意見が分かれ争っているイメージイラスト脊椎を骨折したなど脊髄損傷が画像から明らかである場合や、事故直後から四肢麻痺などの症状が生じ、麻痺の箇所が脊髄損傷の箇所と対応するなど、神経学所見からも脊髄損傷が明らかであるような場合は、脊髄損傷の存在・当該事故・後遺障害との因果関係が争われることはあまりありません。

しかし、脊椎の骨折・脱臼といった損傷が画像から明らかでなく、脊髄損傷の所見も明らかでないといった場合は、脊髄損傷の有無が争われることが多いです。

最も問題となるのは不全損傷の「中心性脊髄損傷」

ところで、脊髄損傷の症状は、脊髄全横断面にわたって神経回路が断絶した完全損傷と、一部でも保たれた不完全損傷、不完全麻痺でも脊髄を完全には損傷しなかった不全損傷とに分類することができます。

不全損傷の場合には、神経が完全には断裂していないため、知覚や運動が完全に麻痺する完全損傷とは違い、損傷の部位・程度・損傷の仕方などによって症状の有無やその程度には大きく差異があるとされています。

この不全損傷の中でも、最も脊髄損傷の有無が問題となりやすいのが「中心性脊髄損傷」と呼ばれる傷病で、脊髄の辺縁に存在する索路(白質)よりも中心部にある髄節(灰白質)が主に損傷する障害とされ、脱臼や骨折がない非骨傷性頸髄損傷に多くみられます。

このように脊髄損傷の有無が問題となる場合、下記の要素などが判断材料となります。

  1. 当該事故が脊髄を損傷する程のものかどうか
  2. 実際の症状が通常の脊髄損傷によって生じ得る症状であるかどうか(症状の内容や麻痺の範囲の相違、症状の遅発・悪化など)
  3. 既往症が存在する場合にその内容(既往症と相まって脊髄損傷が生じたとされる場合や、逆に痺れなどの症状は事故を原因とした既往症の悪化による神経症状であるとして、脊髄損傷は生じていないとされつつ、事故と後遺障害自体との因果関係が認められる場合もあります)

労働能力喪失率

脊髄損傷による障害の程度は、脊髄損傷による症状が、日常生活と労働に及ぼす影響の程度を総合して評価されるべきだと考えられています。

脊髄障害の労働能力喪失率は、上記の等級ごとに定められていますが、この数字はあくまで参考であり、実際には被害者の具体的な事情を考慮したうえで修正されることもあります。

脊髄障害に対する将来介護費用

高次脳機能障害と同じく、脊髄障害についても介護が必要と判断された場合は、職業介護人・近親者に問わず、その介護費用が問題となります。

その介護費用の具体的な金額の算定にあたり、将来介護の必要性とその内容について具体的な事情を考慮した判断が必要となります。しかし、どのような介護が必要となるかなどについては、個別に症状が違うため、高次脳機能障害における判断要素・基準とは一致しません。

素因減額

休業のせいで賞与や減給や昇給の遅延があった場合のテーマ画像素因減額は、事故と被害者に生じた損害との間に相当の因果関係が認められるとして、当時被害者に存在した事由(素因)が損害の発生または拡大に影響をしている場合、損害賠償額を定めるにあたって考慮するべきであるという考え方です。

この点について、最高裁は心因的素因・身体的素因を問わず、損害の公平な分担という不法行為法の趣旨に照らして、これを考慮しないことが公平に反する場合は、損害賠償額の算定においてこれを勘酌することができるとしています。

【素因減額】身体的素因

ここでは、素因減額となる可能性のある被害者の身体的素因をいくつか紹介します。

後縦靭帯骨化症

後縦靭帯骨化症とは、脊椎椎体の後ろ側(脊髄の前方)にある後縦靭帯が厚くなって骨に変わるという病気です。

骨化した靭帯が脊髄や神経根を圧迫するために、神経麻痺の症状が発症、また、脊椎の動きに関わる柔軟性のある靭帯が伸縮不可能な骨に変わるために、脊椎の動きが悪くなります。

脊柱管狭窄症

脊柱管狭窄症とは、何らかの理由で脊柱管が狭くなり、脊柱管内にある馬尾・神経根が圧迫され、歩行などの負担が加わることにより、下肢・会陰部への神経症状をきたす疾患です。

脊柱管は、前面を椎体と椎間板、側面から後面を椎弓根部・椎間関節・椎弓板・黄色靭帯に囲まれ、中に馬尾神経が入った硬膜管と神経根があります。

この脊柱管が、椎間板の膨張や椎間関節・黄色靭帯の肥厚などによって狭くなり、脊柱管内の馬尾神経や神経根が圧迫を受け、神経症状をきたすこととなります。

症状発現のメカニズムとしては、神経組織への物理的圧迫とそれによる血行障害の関与が考えられます。

椎間板ヘルニア

椎間板は、軟骨からなる髄核と、それを取りまく膠原繊維からなる線維輪で構成されています。

加齢とともに椎間板は変性しますが、度重なる負担などによって変性が進行して痛みを生じることがあります。変性が進行することによって、椎間板のひび割れた線維輪から髄核が突出した場合、神経学的所見として痛み・痺れが生じます。これが椎間板ヘルニアです。

脊髄空洞症

脊髄空洞症とは、脊髄髄内に脊髄液が貯留し、空洞を形成した状態です。脊髄髄内腫瘍と合併して脊髄空洞症が生じる場合もあります。

【素因】心因的素因

どのような事情が心因的要因として素因減額の対象となるかが問題となりますが、裁判例では、被害者が抱えるストレス・治療やリハビリに対する態度の消極的さ・受傷内容や神経学的検査の結果に対する反応の過剰さや、神経症や心因反応を発症しやすい精神状態・性格であったこと、著しい被害者意識であったことなどが心因的素因として勘酌される傾向があります。

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