脊柱は変形障害と運動障害に分類されるが、部位ごとに等級が認定される
脊柱の曲がり具合で変形障害の等級が変わる
運動障害は定められた測定要領で即していなければ後遺障害認定に該当しない
脊柱の障害は、大きく変形障害と運動障害に分類されます。
なお、脊柱のなかでも頸椎(頸部)と胸腰椎(胸腰部)では、主たる機能が異なっているため(頸椎は頭部の支持機能、胸腰堆は体幹の支持機能)、障害等級の認定の際には、原則として頸椎と胸腰堆は異なる部分として扱われ、それぞれの部位ごとに等級が認定されます。
それぞれ詳しく見てみましょう。
目次
【脊柱の障害】変形障害
まず、脊柱の変形障害に関する後遺障害等級と認定基準を見てみましょう。
等級 | 後遺障害 | |
---|---|---|
第6級 | 5号 | 脊柱に著しい変形を残すもの |
第8級 | 相当 | 脊柱に中程度の変形を残すもの |
第11級 | 7号 | 脊柱に変形を残すもの |
「脊柱に著しい変形を残すもの」と「脊柱に中程度の変形を残すもの」は、脊柱の後弯または側弯の程度により等級が認定されます。
脊柱の後弯の程度は、脊椎圧迫骨折や脱臼などにより前方椎体高が減少した場合に、減少した前方椎体高と当該椎体の後方椎体高の高さを比較することによって判定されます。脊柱の側弯の程度は、コブ法といわれる方法による側弯度で判定されます。
なお、後弯または側弯が頸椎から胸腰部にまたがって生じている場合は、頸椎と胸腰堆で分けて考えるのではなく、後弯については前方椎体高が減少したすべての脊椎の前方椎体高の減少の程度、側弯については全体の角度によって判定されます。
これを踏まえたうえで、上記よりさらに詳しい後遺障害等級と認定基準が以下になります。
変形障害_脊柱に著しい変形を残すもの
「脊柱に著しい変形を残すもの」とは、エックス線写真やCT画像、MRI画像により脊椎圧迫骨折などを確認できる場合で、下記のいずれかに該当する状態をいいます。
等級 | 後弯の程度 | 側弯度 | ||
---|---|---|---|---|
椎体高減少椎体個数 | 後弯の発生 | 前方椎体高の減少の程度 | ||
第6級5号 | 2個以上 | 必要 | 著しい減少が必要 |
脊椎圧迫骨折などにより、2個以上の椎体の前方椎体高が著しく減少し、後弯が生じている状態です。
この状態の場合、「前方椎体高が著しく減少」とは、減少した全ての椎体の後方椎体高の合計と、減少後の前方椎体高の合計との差が、減少した椎体の後方椎体高の1個あたりの高さ以上であるものです。
等級 | 後弯の程度 | 側弯度 | ||
---|---|---|---|---|
椎体高減少椎体個数 | 後弯の発生 | 前方椎体高の減少の程度 | ||
第6級5号 | 1個以上 | 必要 | 減少が必要 | 50度以上 |
脊椎圧迫骨折などにより、1個以上の椎体の前方椎体高が減少し、後弯が生じている状態に加え、コブ法による側弯度が50度以上の状態です。
この状態の場合、「前方椎体高が減少」とは、減少した全ての全ての椎体の後方椎体高の合計と、減少後の前方椎体高の合計との差が、減少した椎体の後方椎体高の1個あたりの高さの50%以上であるものです。
変形障害_脊柱に中程度の変形を残すもの
「脊柱に中程度の変形を残すもの」とは、エックス線写真やCT画像、MRI画像により脊椎圧迫骨折などを確認できる場合で、下記のいずれかに該当する状態をいいます。
等級 | 後弯の程度 | 側弯度 | ||
---|---|---|---|---|
椎体高減少椎体個数 | 後弯の発生 | 前方椎体高の減少の程度 | ||
第8級相当 | 1個以上 | 必要 | 減少が必要 | |
なし | 不要 | 程度は問わない | 50度以上 |
環椎または軸椎の変形と固定により、下記のいずれかに該当する状態も第8級相当に当てはまります。
- 60度以上の回旋位になっているもの
- 50度以上の屈曲位または60度以上の伸展位になっているもの
- 側屈位となっており、エックス線写真などで、矯正位の頭蓋底部の両端を結んだ線と軸椎下面との平行線が交わる角度が30度以上の斜位となっていることが確認できるもの
このうち、1と2については、軸椎以下の脊柱を可動させずに(当該被災者にとっての自然な肢位で)回旋位または屈曲・伸展位の角度を測定します。
変形障害_脊柱に変形を残すもの
「脊柱に変形を残すもの」とは、エックス線写真やCT画像、MRI画像により脊椎圧迫骨折などを確認できる場合で、下記のいずれかに該当する状態をいいます。
等級 | 後遺障害 | |
---|---|---|
第11級 | 7号 | 脊柱に変形を残すもの |
- 脊柱圧迫骨折などを残しており、それがエックス線写真などで確認できるもの
- 脊椎固定術が行われたもの
- 3個以上の脊椎について、椎弓切除術などの椎弓形成術を受けたもの
脊柱の変形障害に関しては、軽微な骨折で初診時に見落とされ、後に圧迫骨折などがあると診断された場合や、既往症が存在する場合などに、その存在の有無、事故との因果関係の有無をめぐり争いが生じる傾向があります。
骨折の早期発見で争点を少しでも減らすという観点からも、緻密な画像検査は非常に重要です。この点、レントゲンだけでなくMRIも利用することが好ましいと言えます。
【脊柱の障害】運動障害
次は、脊柱の運動障害に関する後遺障害等級と認定基準を見てみましょう。
なお、エックス線写真などでは、脊椎圧迫骨折などや脊椎固定術、項背腰部軟部組織の器質的変化が認められずに、単に疼痛のために運動障害を残すものは、局部の神経症状として等級が認定されます。
等級 | 後遺障害 | |
---|---|---|
第6級 | 5号 | 脊柱に著しい運動障害を残すもの |
「脊柱に著しい運動障害を残すもの」とは、下記のいずれかで頸部と胸腰部が硬直した状態をいいます。
- 頸椎と胸腰堆のそれぞれに脊椎圧迫骨折などが生じ、それがエックス線写真などで確認できるもの
- 頸椎と胸腰堆のそれぞれに脊椎固定術が行われたもの
- 項背腰部軟部組織に明らかな器質的変化が認められるもの
等級 | 後遺障害 | |
---|---|---|
第8級 | 2号 | 脊柱に運動障害を残すもの |
「脊柱に運動障害を残すもの」とは、下記のいずれかに該当する状態をいいます。
- 次のいずれかで、頸部または胸腰部の可動域が参考可動域角度の2分の1以下に制限されたもの
a.頸椎または胸腰堆に脊椎圧迫骨折などが生じ、それがエックス線写真などで確認できるもの
b.頸椎または胸腰堆に脊椎固定術が行われたもの
c.項背腰部軟部組織に明らかな器質的変化が認められるもの - 頭蓋・上位頸椎間に著しい異常可動性が生じたもの
荷重機能障害
荷重機能障害は、下記に該当する場合は運動障害として取り扱われます。
等級 | 後遺障害 | |
---|---|---|
第6級 | 相当 | 頸部および腰部の両方の保持が困難 |
第8級 | 相当 | 頸部または腰部のいずれかの保持が困難 |
どちらも障害の原因が明らかに認められ、常に硬性補装具が必要な状態です。
運動障害の測定方法
運動障害の測定方法は、「関節の機能障害の評価方法および関節可動域の測定要領」によるものとされ、それ以外の方法で測定したものは、自賠責上の後遺障害認定には該当しませんので、注意が必要です。
脊柱の運動障害に関しては、器質的変化の有無を明らかにするために、既往症の有無、どのような原因で、どこの部位を、どのような態様で損傷したのかなど、また運動障害が生じた原因を明確に説明することが必須でとなります。
器質的変化と運動障害の因果関係が認められれば、裁判上は基本的に喪失率表の通りの喪失率が認められる可能性が高いですが、それでも職務への影響を具体的に立証する必要はあります。
【脊柱障害】認定の際に参考となる資料
脊柱障害の等級認定に関しては、器質的変化の存在が重要となるため、症状固定時に作成された後遺障害診断書に加え、脊椎の骨折を視覚的に証明する資料としてエックス線などの画像資料が必要となります。
ここでは、どのような画像資料があるのか説明します。
レントゲン(単純エックス線撮影)
エックス線を身体の目的部位に投射し、透過させて撮影する方法です。人体の組織によってエックス線の透過度が異なるため、人体内部の状態を判断することができる画像診断の基本となる方法です。
CT(コンピューター断層撮影)
computerized tomographyの略です。
人体の精密な横断断層像をエックス線装置とコンピューターを使って撮影する方法です。CTによって、従来のエックス線撮影では解像できない低コントラストの組織も鮮明に摘出することができます。主に外傷による
MRI(磁気共鳴映像)
magnetic resonance imagingの略です。
生体を構成している原子核、主に水素原子核の核磁気共鳴現象nuclear magnetic resonance(NMR)を画像化したものです。NMRとは、原子核が磁場中で特定の波長の電磁波を共鳴吸収しつつ、電磁波を放出する現象です。
MRIには下記の特徴があります。
- 非侵襲性で安全
- コントラスト分解能が優れているため、造影剤を使わなくても軟部組織を摘出することが可能
- 任意の断面像が電気的操作のみで得られる
- 撮像法や撮像のパラメーター(T1(縦緩和時間)、T2(横緩和時間)、水素原子核密度、流れ)を変化させることで、情報が異なる画像が得られる。T1強調画像では脊髄は中信号、髄液は低信号に摘出され、T2強調画像では髄液は高信号に摘出される
このようにコントラスト分解能が高いため、エックス線では確認できなかった異常が確認できる場合もあります。
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