交通事故のムチ打ち-検査方法と病院の正しい選び方

公開日:2016/05/16
最終更新日:2018/07/02

4217人が閲覧しました

ムチ打ち交通事故保険後遺障害通院治療

交通事故において、交通事故による怪我でもっとも多くみられる「ムチ打ち」。ムチ打ちは翌日や数日後に発症するケースが多いですが、事故直後に病院に行ってもよく検査も行わずに帰されるなんてこともあります。

ここでは、交通事故後にきちんと検査してもらうことの大切さや、ぜったいにやっておきたい検査について説明します。

きちんと検査してもらうことの大切さ

ムチ打ち症の主な症例パターンは「頚椎捻挫型」、「神経根症型」、「脊髄症(脊髄損傷)型」の3パターン。一番軽傷なのは首の捻挫「頚椎捻挫型」です。ムチ打ちのほとんどがこの「頚椎捻挫型」とされていますが、交通事故で首を痛めた=「頚椎捻挫型」と判断されてはハッキリ言って冗談では済まされません。 

 交通事故のむち打ちの痛みに苦しむ被害者の写真

交通事故で首を痛めた時にきちんと検査してもらうには、「どういう検査をする必要があるのか」その予備知識が必要となってくるのです。

実際、「交通事故に遭って、首に違和感、痛みがある」と言っても、レントゲンすら撮ってくれない病院もあります。

「医者が言うことだから正しい、間違いない」と鵜呑みにしてしまうと、後で何か問題が起きた時に「被害者である自分が損をしてしまう」ということにもなりかねません。

交通事故でムチ打ち症になった場合、どんな検査が必要で、その検査がなぜ必要なのか、それだけは頭に入れておきましょう。

最低限しておきたいムチ打ち検査

では、交通事故によるムチ打ちになった場合、どのような検査をする必要があるのでしょうか?

画像診断

・レントゲン検査
頚椎の異常だけでなく、靭帯の異常などを画像に残しておくことが大切です。
・MRI検査

MRIを撮影することで軟部組織の病変が見つかる可能性があります。レントゲンに映らない異常を発見できる場合もあるので、MRI検査も受けておいた方がいいといえるでしょう。

・CT検査
CT検査は神経の圧迫やヘルニアなどの病変を発見するのに役立つ検査です。

神経学的検査

神経学的検査とは、神経に異常がないか検査するものです。

スパーリングテスト

スパーリングテストとは神経根(脊髄から枝分かれした頸髄神経)の障害を調べる神経学的テストのこと。スパーリングテストは医師が患者の頭部を押さえ、神経根の出口を狭め、神経根に障害があるかチェックするテストで、神経根になんらかの異常があれば、神経根の支配領域(上肢:肩から指先にかけて)に放散痛や痺れが生じ、いつも以上の違和感や痛みを感じることになります。

握力検査

神経に異常をきたすと、握力にも異常がでることがあります。握力には個人差がありますが、利き手よりも反対の手の方が握力が低いということは神経系に異常が生じている証となります、しかし、握力検査は自分の意思で変動させることができるため、Nliro調査事務所(Nliro調査事務所とは損害保険料率算出機構に属する自賠責損害調査センター調査事務所で、後遺障害を認定するところ)では、握力検査をあまり参考にはしていないようです。

従手筋力検査(としゅきんりょくけんさ)

従手筋力検査とは筋力の低下を診る検査です。神経が障害を負うと、障害を負った神経が支配している筋の筋力が低下してしまいます。この検査によって神経が障害を負っていないかを検査するのです。例えば、肩の三角筋は頸髄神経のC5とC6が支配している器官。つまり、三角筋の筋力が低下しているということは脊髄のC5とC6が何らかの障害を負ってしまっているということになるのです。因みに、上腕二頭筋もC5とC6。手関節伸展筋(肘から先の筋肉)はC6とC7、C8。上腕三頭筋もC6とC7、C8。小指外転筋はC8が支配している部位になります。

従手筋力検査は「従手筋力判定表」に基づいて測定されます。

■従手筋力判定表
表示筋力状態
5 normal100%強い抵抗を加えてもなお打ち勝って動く
4 good75%いくらか抵抗を加えてもなお打ち勝って動く
3 fail50%抵抗を加えなければ重力に打ち勝って動く
2 poor25%重力を除けば動く
1 trace10%筋の収縮はあるが間接は動かない
0 zero0%筋の収縮が全く認められない

上記のような判定表を用いて、症状の状態を検査するのが「従手筋力検査」です。3のfailより下になると日常生活に支障をきたす状態であることは明らかです。

筋萎縮検査

麻痺が起きている状態が長時間続いてしまうと筋は萎縮してしまいます。その萎縮の有無を検査するのが、この「筋萎縮検査」です。筋萎縮検査は両腕の肘間接の上下10cmのところに位置する上腕部と前腕部の周囲をメジャーで測定し、この部位が痩せていれば有効な他覚的所見(本人以外が確認出来る状態)となります。本人の証言や意図的に検査内容をどうにか出来るものではないため、Nliro調査事務所でも注目される検査となります。

知覚検査

知覚検査は皮膚の感覚の有無を検査するもので、馬の毛でできた筆や針などを使って行われます。感覚があるのかどうかは患者本人の自己申告となるため、Nliro調査事務所では、あまり注目されない検査とされています。

深部腱反射テスト(Deep Tendon Reflex)

深部腱反射テストはNliro調査事務所でも重要と考えられている検査のひとつです。腱をゴムのハンマーなどで刺激して筋の収縮を診る検査で、腱を刺激した時の反応が異常だった場合、脊髄や末梢神経に何らかの障害が生じている可能性が疑われます。

■深部腱反射テストの見方
中枢性の麻痺大脳〜脊髄の障害亢進
末梢性麻痺反射での障害低下

脊髄に異常がある時の反射は亢進(症状が進んでいる)または軽度亢進を示し、末梢神経(神経根)に異常がある時の反射は低下または消失を示します。この検査がNliro調査事務所でも重要とされている所以は、有力な神経学所見であると同時に他覚的所見でもあるからです。

病的反射テスト

病的反射テストは脊髄の損傷を確認するための検査です。健常者が発現しない反射が現れるかどうかを診るもので、中枢神経に障害がある場合に病的反射が現れます。病的反射テストには「ホフマン反射」、「トレムナー反射」、「ワルテンベルク徴候」、「バビンスキー反射」などがありますが、ムチ打ちの検査としてはあまり重要視されない部類の検査になります。

なぜなら、ムチ打ちなどで後遺認定される障害は「末梢神経障害」であるのに対し、この検査は「中枢神経障害」を発症している可能性を診るための検査だからです。ただし、これはあくまでムチ打ちと断定されている場合の話。交通事故の被害にあった場合、ムチ打ちだけが怪我ではありません。ムチ打ちとは関係ない怪我をしている可能性だって十分に考えられます。医師が勧めるのであれば、きちんと検査をしてもらった方が安心できるというものではないでしょうか。

絶対にやっておきたい検査

様々なムチ打ち検査をご紹介してきましたが、これだけはやっておきたい検査というものがあります。まずは画像診断。レントゲン、CT、MRIは必ず撮っておきましょう。医師がレントゲンで済ませようとしても、ここは食いさがるべきです。そして、スパーリングなどの神経根誘発テスト、筋萎縮検査、深部腱反射テストの神経学的テスト3つ。ムチ打ちの症状を明確にするためには、少なくともこの3つの検査だけは受けておきたいところです。

病院によって違う検査の内容

当然のことですが、病院にはそれぞれその病院のやり方というものがあります。また、診療内容も各病院によって異なります。つまり、交通事故で負った怪我の対応を適切に行ってくれるところもあればそうでないところもあるということです。また、神経学的検査に明るい病院でないと神経学的検査を行わず、触診、画像診断のみで検査を終了させるところも多いと言われています。

病院のイメージ画像

交通事故で負った怪我は病院にかかれば「お金」に関する問題が発生する案件です。交通事故の被害者になってしまったのであれば、診察代や通院費などを加害者に請求しなければなりません。正当な額を頂くためには「医師の協力は必要不可欠」。なぜなら、怪我の状態がどんなものなのかを書類にまとめてもらう必要があるからです。

特に後遺障害診断書を作成してもらう場合は担当の医師に作成をお願いする必要があります。しかし、交通事故所見に慣れてないない医師が担当の場合や雑務を嫌う医師が担当の場合は、検査や書類作成がおざなりになってしまうことも残念ながらあるのです。そういった医師に当たってしまった場合は自分から必要な検査をお願いするより他ありません。

どんな病院に行けばいいのか

救急車で運ばれてしまったら自分で病院を選択することはできませんが、運ばれた病院の検査や対応に違和感を感じたら「転院」することを考えてもいいかもしれません。その際は必ず「神経学的検査」ができる病院に通うことをお勧めします。ただし、転院する際はそれ相応のリスク、デメリットがあることを頭に置いておいた方がいいかもしれません。

まず、「交通事故患者を嫌がる医師がいる」という点。前述したように、交通事故で負った怪我は治れば終了というものではありません。医師は治療だけでなく、患者のための書類を作ったり、場合によっては裁判沙汰になるケースも多いということを知っています。そのため、重症の患者ならいざ知らず、ムチ打ちなどの軽傷の患者を軽視するケースも少なくないのです。最初にかかった病院の対応が微妙だからと転院しても、次の病院が「被害者の味方になってくれる病院であるとは限らない」ということですね。

そうならないためにはどうしたらいいのか。まずは「首の専門医」がいる病院を探すことです。医師と一口に言っても、皆専門の診療科目を持っています。整形外科でも同じ。膝の治療を得意とする先生もいれば、腰の治療を得意とする先生もいます。「首の専門医」がいる病院なのかどうかは、電話で確認するしかないでしょう。今の状態を説明し、電話対応の良し悪しで判断するしかありません。

交通事故の症状を診断する病院の待合室の画像

また、大学病院や患者数の多い総合病院なども避けた方がいいと言えます。これは、大きな病院になればなるほど、ひとりの患者にかけられる時間が短くなり、コミュニケーション不足が発生してしまう可能性が高いからです。

交通事故の場合、医師に協力してもらうことも多いため、流作業的な病院では積極的な協力はなかなか得ることができない可能性があります。病院を選択するのであれば、設備の充実した(レントゲン、MRI、CTなど)整形外科の開業医にかかるのがおすすめです。

ムチ打ちは受傷直後の検査が重要な怪我

ムチ打ちは交通事故による怪我の代名詞。しかも、軽傷と思われがちな怪我です。しかし、受傷後、数日経ってから手や首に違和感が出てきたり、痺れや麻痺といった日常生活に支障をきたす可能性のある怪我であることを忘れないでください。事実、ムチ打ちの後遺障害に一生涯悩まされる被害者の方もいらっしゃるのです。しかも、病院での検査が適切でなかった場合、後遺障害が認められず、泣き寝入りするしかなくなるケースもあります。

交通事故の被害に遭い、ムチ打ちになってしまった場合は、必ず、適切な検査を受け、適切な治療を行うこと!これが重要です。

シェアする