末梢神経は、脳脊髄神経と自律神経に分けられる
末梢神経障害には運動麻痺や感覚障害など多数の障害がある
認定に必要なのは「労働ができるかどうか」と「医学的な証明」
末梢神経とは、中枢神経である脳と脊髄から出ている神経をいい、脳脊髄神経(脳神経および脊髄神経)と自律神経(交感神経および副交感神経)に区別することができます。
ここでは、その末梢神経の障害について説明します。
目次
末梢神経障害の症状
まずは、末梢神経障害による症状がどのようなものがあるか見てみましょう。
運動麻痺
中枢性運動麻痺(上位運動ニューロン障害)と末梢性運動麻痺(下位運動ニューロン障害)があります。
中枢性運動麻痺では、大脳・脳幹・脊髄にいたる皮質脊髄路の障害によって現れ、深部腱反射亢進や病的反射がみられます。
末梢性運動麻痺では、筋緊張の減退や消失、反射の減弱や消失、筋萎縮、末梢神経の支配領域に応じた知覚障害が生じます。
感覚障害
損傷を受けた神経が支配する皮膚の領域に感覚障害が現れます。感覚障害が現れた領域と、損傷されたとされる神経支配領域を対照することで、神経の損傷の有無がわかります。
神経根障害
神経根の障害のレベルは、遮断と圧迫があり、圧迫には程度があります。この障害のレベルは、筋力・知覚・反射を検査することで明らかになります。
例えば、神経根が遮断された場合、脱神経を引き起こすために、その支配筋は弛緩性麻痺が起こります。また、錐体路や脊髄視床路などの長経路が遮断された場合は、痙性麻痺や触覚・痛覚の脱失がみられます。
神経根へ圧迫がある場合は、反射の減退が生じ、上位運動ニューロンから反射調整機序が失われ、反射の亢進がみられます。
自律神経障害
自律神経に障害が生じると、発汗障害や血管運動障害、栄養障害が現れます。
発汗障害は、交感神経の障害によって皮膚の汗腺からの発汗が妨げられ、皮膚が乾燥します。
血管運動障害は、交感神経が遮断されることによって血管運動に障害が生じ、その支配領域の血管が拡張して血流が増大し、結果的に皮膚の温度が上昇します。
栄養障害は、皮膚萎縮や皮下脂肪組織萎縮、結合組織萎縮、爪の萎縮、骨の萎縮などを引き起こします。
末梢神経障害の等級認定の基準
末梢神経障害の等級は、下記の2つに分類されます。しかし、カウザルギーやRSD、線維筋痛症などは特殊な性状の神経症状として別の基準で認定されます。
等級 | 後遺障害 | |
---|---|---|
第12級 | 13号 | 局部に頑固な神経症状を残している状態 |
第14級 | 9号 | 局部に神経症状を残している状態 |
なお、原則として、末梢神経障害の等級認定は、損傷を受けた神経が支配する身体各部の器官の機能障害にかかわる等級で認定されます。
従来と現在では「必携」が異なる
従来の必携
従来の労災の等級認定の基準となる「必携」では、12級については「通常の労働には差し支えはないが、医学的に証明できる神経系統の機能または精神の障害を残す状態」と定義されてきました。
また、14級については「通常の労働には差し支えはないが、医学的に説明ができる神経系統または精神の障害にかかわる所見があると認められる状態」と定義され、「医学的に証明できる精神神経学的な症状は明らかではないが、頭痛やめまい、疲労感などの自覚症状が単なる故意の誇張ではないと医学的に推定される状態がこれに該当する」と説明されていました。
現在の必携
そして、現在の「必携」では、12級については「通常の労務に服することができ、職種制限もないが、時に労務に支障が生じることがある状態」と定義され、14級についても「12級よりも軽度の状態」と抽象的な説明しかありません。
しかし、現在でも「医学的な証明が可能かどうか」で区別する考え方は、裁判上でも採用されています。
「医学的な証明が可能かどうか」の判断材料
「医学的な証明が可能かどうか」は、X線・CT・MRI・脳血管撮影などの画像診断や脳波検査、深部反射検査、病的反射検査、筋電図検査、神経伝道速度検査、知覚検査などの検査結果をもとに判断されます。
すなわち、事故によって身体に異常が生じ、上記のような検査の結果から、その異常が原因で障害が生じていることが判断できる場合は、「医学的な証明が可能」ということになります。
神経学的な検査方法
末梢神経障害の有無を判断するために必要な検査を見てみましょう。
筋力
筋力を測定・評価し、神経障害がある部位を診断する方法です。徒手筋力評価(MMT:manual muscle testing)は、下記の6段階で筋力を判定します。
段階 | 評価 | 詳細 |
---|---|---|
5 | normal | 強い抵抗力で重力に対して可動域内を完全に動かせる |
4 | good | かなりの抵抗力で重力に対して可動域内を完全に動かせる |
3 | fair | 重力に対して可動域内を完全に動かせる |
2 | poor | 重力を除くと可動域内を完全に動かせる |
1 | trace | 筋肉の収縮のみで関節の動きはない |
0 | zero | 筋肉の収縮なし |
また、神経障害がある部位によって筋力の低下がみられる部位は異なります。
神経障害部位 | 筋力低下がみられる部位 |
---|---|
C5 | 三角筋、上腕二頭筋 |
C6 | 腕橈骨筋、手根伸筋(橈側) |
C7 | 上腕三頭筋、手根伸筋(尺側)、手根屈筋(橈側) |
C8 | 手根屈筋(尺側) |
反射
深部腱反射
深部腱反射とは、腱を打診することによって生じる不随意筋収縮のことをいいます。中枢神経系の障害では亢進し、末梢神経の障害では減弱・消失します。
ちなみに、不随意筋収縮とは、自分の意思とは関係なく現れる異常筋収縮です。
三角筋反射 | C4~C6 | 腋窩神経 |
上腕二頭筋反射 | C5、C6 | 筋皮神経 |
腕橈骨筋反射 | C5~C7 | 橈骨神経 |
上腕三頭筋反射 | C7、C8 | 橈骨神経 |
表在反射
表在反射とは、皮膚の刺激を与えることで生じる不随意筋収縮のことをいいます。中枢神経系の障害では低下・消失します。
腹壁反射 | 上 | T5~T7 |
中 | T8~T10 | |
下 | T11~T12 | |
挙睾反射 | L2~L3 | |
肛門反射 | S3~S5 | |
足底反射 | L5、S1~S2 |
病的反射
病的反射とは、中枢神経系の障害によって出現し、通常であれば出現しない反射のことをいいます。どのようなものがあるか見てみましょう。
- ホフマン反射
中指を上から下にはじくと、他の指が反射的に屈曲する上肢の病的反射 - トレムナー反射
中指を下から上にはじくと、他の指が反射的に屈曲する上肢の病的反射 - ワルテンベルク徴候
手指掌側をハンマーで叩くと、手指が屈曲する上肢の病的反射 - バビンスキー徴候
足底部の外縁を刺激すると、足指(特に親指)がゆっくり背屈し、指が開く下肢の病的反射
なお、ホフマン・トレムナー・ワルテンベルクは健常者でも出現することがあるため、バビンスキーのみ病的反射と区別することもあります。
クローヌス
クローヌスとは、中枢神経系の障害によって現れる、急激に連続して生じる筋収縮と弛緩の動きのことをいい、生じる部位によって動きが異なります。
下腿三頭筋に生じる足クローヌスは、他動的に足関節を急激に背屈させると、足関節が律動的に背屈・底屈運動をします。
大腿四頭筋に生じる膝クローヌスは、他動的に膝蓋骨を急激に下方に押すと、律動的に上下運動をします。
神経根症状誘発テスト
スパーリングテスト
頭部を患側に傾斜・後屈して圧迫を加えることで椎間孔を狭め、椎間孔を通る神経根に障害がないか調べます。障害が存在する場合は、その神経根の支配領域に疼痛やしびれ感が生じます。なお、患側とは、麻痺や障害などが存在する部位側をいいます。
ジャクソンテスト
頭部を後屈して圧迫し軸圧を加える検査です。頭部を反対側に倒し肩を下方へ押し下げる肩引き上げテストをジャクソンテストと呼ぶこともあります。
いずれも、神経根障害が存在する場合は、その支配領域に疼痛やしびれ感が生じます。
胸郭出口症候群の誘発テスト
胸郭出口症候群とは、腕神経叢と鎖骨下動脈および鎖骨下静脈が胸郭出口付近で頸助、鎖骨、第一肋骨などや前斜角筋、中斜角筋、小胸筋などが圧迫・けん引されることで生じる症状の相称です。
これを誘発させて存在を調べる検査は以下のようなものがあります。
アドソンテスト
患側に頭部を回旋させた後に、顎を上げて深呼吸を行い、橈骨動脈の拍動をみる検査です。患側の橈骨動脈の脈拍が減弱や消失した場合は陽性となります。
ライトテスト
座った状態で両腕を外転・外旋させ、橈骨動脈の拍動をみる検査です。患側の橈骨動脈の脈拍が減弱や消失した場合は陽性となります。
エデンテスト
胸を張った状態で両肩を後下方に引き、橈骨動脈の拍動をみる検査です。患側の橈骨動脈の脈拍が減弱や消失した場合は陽性となります。
モーレーテスト
鎖骨上窩(肩甲鎖骨三角)で腕神経叢を指で圧迫する検査です。圧痛や上肢・前胸部に放散痛が生じた場合は陽性となります。ちなみに、放散痛とは、圧迫した部位とはかけ離れた部位に現れる痛みのことをいいます。
ルーステスト
肩を外転・外旋し、肘屈曲位の姿勢で手指の屈伸を3分間行う検査です。手指の痺れや前腕のだるさで3分間継続することができなければ陽性となります。
腰部神経の誘発テスト
ラセーグテスト
患者さんを仰向けにし、股関節と膝関節を90度に折り曲げ、検査する人が膝を徐々に伸展させる検査です。椎間板ヘルニアなど、坐骨神経(L4、L5、S1、S2、S3の神経根)に圧迫や癒着がある場合は、大腿後面から下腿後面に疼痛が生じます。
下肢伸展挙上テスト
患者さんを仰向けにし、足を伸ばしたまま上げてもらい、床面からどの程度上がるかを調べる検査です。通常ですと70度近くまでは上がるものですが、坐骨神経に障害がある場合は、大腿後面から下腿後面に疼痛が生じ、足をあまり上げることができません。例えば、椎間板ヘルニアの患者さんですと、30度も上げることができないこともあります。
大腿神経伸長テスト
患者さんをうつ伏せにし、膝を90度に曲げさせ股関節を伸展するように持ち上げる検査です。椎間板ヘルニアなど、大腿神経(L2、L3、L4の神経根)に障害がある場合は、大腿神経に沿った大腿前面に痛みが生じます。
その他
筋電図検査
神経細胞より発した末梢あるいは中枢に伝道する活動電位を記録する検査です。
神経細胞より発した活動電位を表面電極あるいは針電極を用いて記録し、感覚神経や運動神経の伝道速度や神経・筋肉の機能を測ることができます。
神経伝道速度検査
神経伝道速度検査には、下記の2種類の検査があります。どちらの検査も、末梢神経に障害がある場合は、伝道速度が低下します。
- 2点の神経刺激によって得られた筋電位(M波)の潜時差と刺激間距離を測定するMCV
- 刺激による神経電位の潜時と、刺激点と記録点の距離から求めるSCV
サーモグラフィ
サーモグラフィとは、対象物から出ている赤外線放射エネルギーを検出し、見かけの温度に変換して温度分布を画像表示する装置です。サーモグラフィは熱の伝達に関与する器官の機能評価および疾患の診断に使用されます。
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