脳に損傷を受けたことで起きる障害だが、等級認定が困難で慰謝料請求が難しい
機能障害を認定するには脳の異常損傷が必須
自賠責保険と労災保険では基準が異なっている
高次脳機能障害とは、脳に損傷を受けたことで起こる記憶障害や注意障害、社会的行動障害などの神経心理学的障害です。
等級認定される後遺障害の1つですが、骨折などのように目に見えるものではないため、等級認定が困難で、慰謝料などの請求が難しい症状です。
ここでは、その高次脳機能障害について詳しく見ていきます。
目次
「高次脳機能障害」の定義
自賠責保険における「脳外傷による高次脳機能障害」とは、脳外傷後の急性期に始まり多少軽減しながら慢性期へと続く、下記のような特徴的な臨床像であるとされています。
多彩な認知障害・行動障害・人格変化のような典型的な症状の出現
認知障害とは、記憶・記銘力障害・注意や集中力の障害・遂行機能障害などをいいます。
行動障害は、周囲の状況に合わせた適切な行動ができない、複数のことを同時に処理できない、行動を抑制できない、危険を予測・察知して回避行動をすることができないといった症状をいいます。
そして、人格変化とは、事故前には見られなかったような、自発性低下・衝動性・易怒性・幼稚性・自己中心性・病的嫉妬・ねたみ・執着性などです。
発症の原因および症状の併発
上記の典型的な症状は、主に脳外傷によるびまん性脳損傷を原因に発症しますが、脳挫傷や頭蓋内血腫などの局在的脳損傷との関りも否定できません。実際のケースも、両方が併存するケースは少なくありません。
時間的経過
脳外傷による高次脳機能障害は、急性期には重篤な症状が発現していても、時間の経過とともに軽減する傾向があります。そのため、後遺障害の判定は、急性期の神経学的検査結果に基づくものではなく、経時的に検査を行って回復の推移を確認する必要があります。
社会生活適応能力の低下
上記で述べた典型的な症状が残った場合、社会生活への適応能力が低下し、重症の場合は就労や就学が困難になったり、介護が必要になることもあります。
見過ごされやすい障害
脳外傷による高次脳機能障害は、見落としやすい障害と言えます。たとえば、急性期の合併外傷のために高次脳機能障害の存在を見落としたり、被害者本人が症状を自覚していなかったり否定している場合があるためです。
機能障害には器質的損傷が必要
ところで、精神的障害については、器質性と非器質性とに分類されます。自賠責保険における等級認定は、労災保険の等級基準に準じて行われており、労災保険が「高次脳機能障害は脳の器質的病変に基づくもの」としていることから、自賠責保険も高次脳機能障害は脳の器質的損傷の存在が必須となります。
高次脳機能障害の発症の判断と症状の的確な把握
脳外傷による高次脳機能障害の症状を医科学的に判断するためには、下記が重要なポイントとなり、その障害の実相を把握するためには、家族や介護者などから得られる被害者の日常生活の情報が非常に有効となります。
- 意識障害の有無とその程度・長さの把握
- 画像資料上で外傷後ほぼ3か月以内に完成するびまん性脳室拡大・脳萎縮の所見
- 事故などによって負った傷害との因果関係の有無
審査会の選定基準
自賠責保険においては、脳外傷による高次脳機能障害に該当する可能性のある事案は、特定事案として脳神経外科医や弁護士などによって構成される高次脳機能障害審査会で審査されます。その審査対象の選定基準は以下の通りになります。
機能障害を示唆する症状が認められる場合
後遺障害診断書で高次脳機能障害を示唆する症状の残存が認められる場合は、高次脳機能障害に関する調査を行ったうえで、自賠責保険審査会において審査を行います。
機能障害を示唆する症状が認められない場合
後遺障害診断書で高次脳機能障害を示唆する残存が認められない場合で、以下の条件に該当する場合は、高次脳機能障害が見落とされている可能性が高いため、慎重に調査を行います。
- 初診時に頭部外傷の診断があり、途中経過で高次脳機能障害・脳挫傷・びまん性軸素腹傷・びまん性脂損傷などの診断がされている場合
- 初診時に頭部外傷の診断があり、途中経過で認知・行動・情緒障害を示唆する具体的な症状がある、または失調性歩行や痙性片麻痺など高次脳機能障害に伴いやすい神経系統の障害が認められる場合
- 途中経過で初診時の頭部画像所見として頭蓋内病変が認められる場合
- 初診時に頭部外傷の診断があり、初診病院の途中経過で当初の意識障害が少なくても6時間以上、もしくは健忘あるいは軽度意識障害が少なくても1週間以上続いていることが確認できる場合
- その他に脳外傷による高次脳機能障害が疑われる場合
なお、上記の要件は自賠責保険における高次脳機能障害の判定基準にはなりませんので注意が必要です。
高次脳機能障害の等級認定の基準
高次脳機能障害の等級認定にあたっては、症状固定のさいに作成される「自賠責後遺障害診断書」や、事故発生直後から症状固定までの頭部の画像検査資料、医師や家族・介護者によって記載された「精神症状についての具体的所見」などの資料と具体的な症状を把握したうえで認定が行われることになります。
自賠責における等級認定の基準
自賠責における等級認定の基準は、自動車損害賠償保障法施行令2条によって定められており、「等級の認定は、原則として労働者災害補償保険における障害の等級認定の基準に準じて行う」とされています。
なお、自賠責保険においては、脳外傷による高次脳機能障害の等級認定にあたり、従来の等級表に加えて下記のような「補足的な考え方」が追加されました。
それぞれの認定基準とその等級の「補足的な考え方」を見てみましょう。
等級 | 後遺障害 | |
---|---|---|
第1級 | 1号 | 神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、常に介護を必要とするもの |
【補足的な考え方】
身体機能は残っているが、高度の痴呆があるために、生活維持に必要な身の回り動作に全面的な介護が必要なもの。
等級 | 後遺障害 | |
---|---|---|
第2級 | 1号 | 神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、随時介護を必要とするもの |
【補足的な考え方】
著しい判断力の低下や情動の不安定などが原因で、1人で外出することができず、日常の生活範囲が自宅内に限定されているもの。
身体動作的には排泄や食事などはできても、生命維持に必要な身辺動作に家族からの声掛けや看視が必須なもの。
等級 | 後遺障害 | |
---|---|---|
第3級 | 3号 | 神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、 終身労務に服することができないもの |
【補足的な考え方】
自宅周辺を1人で外出できるなど、日常の生活範囲は自宅に限定されておらず、声掛けや介助なしで日常の動作を行うことができる。
しかし、記憶や注意力、新しいことを学習する能力、障害の自己認識、円滑な対人関係維持能力などに著しい障害があるため、一般就労が不可能または困難なもの。
等級 | 後遺障害 | |
---|---|---|
第5級 | 2号 | 神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、 特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
【補足的な考え方】
単純な繰り返し作業などに限定すれば、一般就労も可能だが、新しい作業の学習が不可能であったり、環境が変わると作業継続が困難になるなどの問題がある。
そのため、一般人と比較すると作業能力が著しく制限されたり、就労の維持には職場の理解と援助が不可欠であるもの。
等級 | 後遺障害 | |
---|---|---|
第7級 | 4号 | 神経系統の機能または精神に障害を残し、 軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
【補足的な考え方】
一般就労を維持することができるが、作業の手順が悪い、約束を忘れる、ミスが多いことが原因で一般人と同等の作業を行うことができないもの。
等級 | 後遺障害 | |
---|---|---|
第9級 | 10号 | 神経系統の機能または精神に障害を残し、 服することができる労務が相当な程度に制限されるもの |
【補足的な考え方】
一般就労を維持するができるが、問題解決能力などに障害があるため、作業効率や作業持続力などに問題があるもの。
労災保険の認定基準
労災保険に関しては、労働災害被災者を対象にしていることから、就労にするために必要となる①意思疎通能力、②問題解決能力、③作業負担に対する持続・持久力、④社会行動能力、これらをどれほど失ったかに着目し、4能力の喪失の程度、介護の要否によって等級評価を行うことになります。
具体的な基準は下記の通りです。
①意思疎通能力(記憶力・認知力・言語力など)
A.多少の困難はあるが概ね自力でできる
- 特に配慮をされなくても、職場で他人と意思疎通をほぼ図ることができる。
- 必要に応じてこちらから電話をかけることができ、かかってきた電話も内容をほぼ正確に伝えることができる。
B.困難はあるが概ね自力でできる
- 職場で他人と意思疎通を図ることに困難を生じることがあり、ゆっくりと話してもらう必要が時々ある。
- 普段の会話はできるが、文法的な間違いをしたり、適切な言葉を使うことができない時がある。
C.困難はあるが多少の援助があればできる
- 職場で他人と意思疎通を図ることに困難を生じることがあり、意味を理解するために繰り返してもらう必要がたまにある。
- かかってきた電話の内容を伝えることに困難が生じることが時々ある。
D.困難はあるがかなりの援助があればできる
- 職場で他人と意思疎通を図ることに困難を生じることがあり、意味を理解するために繰り返してもらう必要が時々ある。
- かかってきた電話の内容を伝えることに困難を生じることが多い。
- 単語を羅列することで自分の考え方を伝えることができる。
E.困難が著しく大きい
- 実物を見せる、実際にやってみせる、ジェスチャーで示すなどの手段を使いながら話しかければ、短い文や単語を理解することができる。
- ごく限られた単語を使ったり、誤りの多い話し方をしながらも、何とか自分の欲求や望みだけは伝えることができるが、聞き手は繰り返し尋ねたり、推測をする必要がある。
F.できない
職場で他人と意思疎通を図ることができない。
②問題解決能力(理解力・判断力など)
A.多少の困難はあるが概ね自力でできる
- 複雑な手順でなければ、理解して実行することができる。
- 抽象的な作業でなければ、1人で判断し実行することができる。
B.困難はあるが概ね自力でできる
AとCの中間
C.困難はあるが多少の援助があればできる
- 手順を理解することに困難を生じることがあり、助言を必要とすることがたまにある。
- 1人で判断することに困難を生じることがあり、指示を必要とすることがたまにある。
D.困難はあるがかなりの援助があればできる
CとEの中間
E.困難が著しく大きい
- 手順を理解することが著しく困難であり、頻繁な助言がなければ対処することができない。
- 1人で判断することが著しく困難であり、頻繁な指示がなければ対処することができない。
F.できない
課題を与えられても実行することができない。
③作業負担に対する持続力・持久力
A.多少の困難はあるが概ね自力でできる
8時間は概ね支障なく働くことができる。
B.困難はあるが概ね自力でできる
AとCの中間
C.困難はあるが多少の援助があればできる
障害のために予定外の休憩、あるいは注意を喚起するための監督がたまに必要であり、それがないと概ね8時間働くことができない。
D.困難はあるがかなりの援助があればできる
CとEの中間
E.困難が著しく大きい
障害のために予定外の休憩、あるいは注意を喚起するための監督を頻繁に行っても、半日程度しか働くことができない。
F.できない
持続力が欠けているために働くことができない。
④社会行動能力(協調性など)
A.多少の困難はあるが概ね自力でできる
障害が原因となる不適切な行動はほとんど認められない。
B.困難はあるが概ね自力でできる
AとCの中間
C.困難はあるが多少の援助があればできる
障害が原因となる不適切な行動がたまに認められる。
D.困難はあるがかなりの援助があればできる
CとEの中間
E.困難が著しく大きい
障害が原因となる不適切な行動が頻繁に認められる。
F.できない
社会性が欠けているために働くことができない。
高次脳機能障害等級の区分
上記を踏まえて高次脳機能障害の等級の区分を見てみましょう。
等級 | 4つの能力の喪失の程度 | |
---|---|---|
1つ以上の能力の | 2つ以上の能力の | |
第1級 | 常時介護が必要なもの | |
第2級 | 随時介護が必要なもの | |
第3級 | 全部喪失 | 大部分喪失 |
第5級 | 大部分喪失 | 半分程度喪失 |
第7級 | 半分程度喪失 | 相当程度喪失 |
第9級 | 相当程度喪失 | |
第12級 | 多少喪失 | |
第14級 | わずかな能力喪失 |
なお、前述の「喪失の程度」と上記の高次脳機能障害等級の区分における「能力の喪失の程度」の対応関係は次の通りになります。
喪失の程度 | 能力の喪失の程度 |
---|---|
A.多少の困難はあるが概ね自力でできる | わずかな能力喪失 |
B.困難はあるが概ね自力でできる | 多少喪失 |
C.困難はあるが多少の援助があればできる | 相当程度喪失 |
D.困難はあるがかなりの援助があればできる | 半分程度喪失 |
E.困難が著しく大きい | 大部分喪失 |
F.できない | 全部喪失 |
労災認定基準と自賠責認定基準の整合性
自賠責保険における高次脳機能障害の等級認定に関しては、従来の判断基準に補足された考え方と、自賠責が準ずるとされている労災保険における認定基準との整合性が問題となります。
これ問題に関しては、就労者である成人被害者に対しては、従来の考え方を用いて等級認定をした後、労災保険で使用している「高次脳機能障害整理表」に当てはめて検証し、最終的な結論をするべきだとされています。
また、労災保険の認定基準では就労を前提としていることから、非就労者である子どもや高齢者についての判断基準はどうなるのでしょうか。この点については、子どもは事故後の学習能力などの獲得や集団生活への適応能力に与える高次脳機能障害の影響を考慮し、高齢者は加齢による症状の変化を考慮をしたうえで妥当な等級認定をするべきだとされています。
後遺障害の等級認定を受けるにあたり、スムーズかつ的確に進めたい場合は弁護士への依頼がおすすめです!
交通事故でケガを負い完治しないと判断された場合(症状固定)、適正な損害賠償額を受け取るためにも後遺障害の等級認定を受ける適正な等級認定を得るためには、書類作成から専門家である弁護士に相談するのがおすすめです。初回相談料や着手金が0円の弁護士事務所もありますので、示談交渉に不安を感じたらまずは弁護士へ相談してみましょう。
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・後遺障害認定に関する書類作成や審査などは専門的な知識が必要となるため、専門家である弁護士に任せることにより、スムーズに手続きを進めることができる。
・専門家により適正な障害等級を得ることができ、後遺障害慰謝料の増額が見込める。
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